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インサイトを発見し、自身の“間違い”を受け入れられるか

2025.06.15経営・マネジメント

インサイト中心の成長戦略

上場企業創業者から学ぶ事業創出の実践論

著者:中村陽二
出版社:実業之日本社
発売日:2024年9月19日

著者について

中村陽二(なかむらようじ)。株式会社ストラテジーキャンパス代表取締役 東京大学工学部卒・同大学院工学系研究科修了後、2014年新卒でマッキンゼー・アンド・カンパニー入社。2015年退社後、事業再生を目的とした株式会社サイシード設立、代表取締役に就任。人材・広告会社を買収し代表として事業再生を行う。事業再生の後、会社を売却し、売却先の取締役に就任。2017年より新規事業としてAI事業を立ち上げ売上20億円・営業利益11億円に到達後、投資ファンドへ売却。2021年、取締役として東証グロース市場へ上場。2021年、エンジェル投資先企業の東証グロース市場への上場を経験。現在は株式会社ストラテジーキャンパスの代表として、国内および海外を対象とした新規事業・投資に関するアドバイザリーに多数取り組んでいる。

本の概要

新たな領域へ進出して事業を成功させるには何が必要か。著者は、その核心に“インサイト”があると説く。本書が定義するインサイトとは「背景知識に基づいた現象解釈による戦略」であり、単なる知識の寄せ集めからは決して生まれない。豊富な背景知識を携えたうえで「あの商品が伸びている」「顧客は強い不満を抱えている」といった現象を観察すると、「こうすれば勝てるのでは?」という洞察がひらめく。この“発見”こそがインサイトであり、成長戦略の核となる。

本書は、ゼロから起業し上場を果たした六人の実業家の事例を軸に、インサイトを見つけて事業を伸ばす具体的な手順を解説する。新領域進出や事業創出に携わる読者にとって必携の一冊だ。

読んだ感想

『LayerXはブロックチェーンの会社じゃありません。』-福島良典

この言葉は、元グノシー創業者で、現在は株式会社LayerXのCEOを務める福島良典氏が2021年に自身のnoteで語ったものです。LayerXは、クラウド型の経理業務支援システム「バクラク」シリーズを手掛けるFinTech企業で、使いやすいUIとAIを活用した高精度なバックオフィス効率化に定評があります。バクラクシリーズは2021年1月にサービスを開始し、現在の累計導入社数は1万5,000社を超えるなど、今最も勢いのあるFinTechサービスの一つと言っても過言ではないでしょう。しかし、LayerXの歩みを振り返ると、「決して平坦な道のりではなかった」ということがわかります。

福島氏がLayerXを創業したのは2018年8月のこと。当初はブロックチェーン技術のコンサルティング事業を主軸にスタートしました。福島氏はDIMENSION NOTEのインタビューの中で「日本の金融領域こそメディア産業に続く次のデジタル化の波が来ると確信していた」と当時を振り返っています。しかし、実際に進めたブロックチェーン領域の事業は思うような成果を上げられず、福島氏自身「率直に言えば、この事業自体は失敗でした」と認めています。それでも、その挑戦が後のピボットにつながりました。

ピボットのきっかけとなったのは、日々の顧客との対話から得られた“現場発”のインサイトでした。LayerXのチームが企業のバックオフィス業務をヒアリングしていく中で、多くの企業が紙やPDFの請求書を人力で処理し、手作業で銀行振込をしている実態が浮き彫りになりました。「請求書を紙でやり取りし、目視でチェックし、手作業で銀行口座に送金」しており、ミスをすれば大きな影響が出るため担当者には強いプレッシャーがかかっていることがわかったのです。

福島氏は、この「不自然なまでに非効率」な領域こそ次なるデジタル化の波が強く押し寄せる分野であると直感し、ここに事業ドメインをピボットすることを決断します。そして、2021年1月にバクラクシリーズ最初のプロダクトである「バクラク請求書」をリリースし、導入企業を指数関数的に増やしていき、現在に至ります。

この福島氏のピボットのエピソードは、本書『インサイト中心の成長戦略』の中の「顧客の属性や需要に対する予測は、裏切られることが前提」という言葉を思い出させます。そして、発見した“需要”に対しては即座に軌道修正を行い、最適化していくことが何よりも重要です。その際に求められるのは、リーダーが「自分の想定が間違っていた」ことを受け入れられる“心の強さ”だと本書は教えてくれます。

本書が提唱するように、そしてLayerXの「バクラク」シリーズの成功からもわかるように、成長戦略の中核をなすのはインサイトです。綿密に仮説を立てて事業をスタートさせても、その仮説通りに進むことは滅多にありません。事業の途中で「思わぬ需要があった」というインサイトを発見できれば、それが必ず事業の方向性を導いてくれるはずです。しかし、創業初期の「仮説」を自ら否定しアップデートするのは、それに思い入れがあるほど辛い選択となります。それでもやりきり、需要に最適化していった企業だけが、持続的に成長できるのかもしれません。

インサイトは行動しなければ発見できません。そして、より重要なのは、得たインサイトを踏まえてリーダー自身が考え方を改められるかどうかです。リーダーの真価は、その決断力にこそ表れるのではないでしょうか。

印象に残った言葉【本書から引用】

成長戦略の中核をなすのはインサイトである。インサイトは顧客中心、先行者中心の両面で発見することが可能である。インサイト発見のためには対象顧客および先行者らとの対話を重ねることが有効である。頻繁な対話抜きにインサイトを発見することは極めて難しい。インサイトは客観的に説明困難であり、背景知識・経験を共有する人らとしか共有できない。(P.4)
非常に多く見られ、かつ実用的なアプローチは「儲かっている事例を聞き、自社でもなんらかの類似事業に取り組めないか」と考えることである。(P.36)
熱意が持続する期間(筆者の感覚では長くて2年)にその変化が大規模に起きなければならない。「いつかは」そうなるという考えは事業の助けにはならない。構造変化の時期と規模を見誤り実に多くの会社が「いつかは」と言いながら失敗していった。(P.142)
試しに、東証のサイトで新規上場をした企業の商材を見てみよう。ほとんどのものが「普通」に見えるのではないだろうか。ほとんどの商材は素人目には独自性もなく、面白みもないものなのだ。(P.222)
事業立ち上げ段階では顧客の需要に導かれるようにして、会社の形を最適化する必要がある。顧客の属性や需要に関する予測は、裏切られることが前提であると考えよう。事前の想定と異なるため軌道修正に時間がかかる、ということはあってはならない。需要には即対応が基本だ。(P.274)

AUTHOR天野 勝規

株式会社まほろば 代表取締役

士業専門のホームページ制作会社「株式会社まほろば」の代表取締役。大阪教育大学 教育学部 卒業。総合小売業(東証プライム上場)、公益法人での勤務を経て29歳で起業。
独立開業時の集客・顧客開拓に関する相談から、年商数億円規模の事務所のマーケティング顧問まで幅広い対応実績。15年間で3,000事務所以上からご相談・お問合せ。
ホームページを活用しつつも、SEO対策だけに頼らない集客・顧客開拓の仕組みづくりを推奨している。
【保有資格】
社会保険労務士、年金アドバイザー2級

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