| 制作費 | 49,800円 | (税込54,780円) |
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| 維持管理費 | 月額3,980円 | (税込4,378円) |
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まほろば文庫
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2026.01.01|経営・マネジメント
いかなる時代環境でも利益を出す仕組み
著者:大山健太郎
出版社:日経BP 日本経済新聞出版
発売日:2024年4月2日
著者について
2024年12月期の決算で、アイリスグループは4年ぶりとなる増収増益を達成した。1971年の高度経済成長期に従業員5人の小さなプラスチック加工工場からスタートしたアイリスオーヤマ。オイルショックや、バブル崩壊後の価格破壊、コロナ禍後の巣ごもり需要減など、数々の逆境を乗り越えながらも着実に利益を出し、会社を成長させてきた。
そして本書は、アイリスオーヤマ会長・大山健太郎氏が、激動の時代を乗り越えながらも会社を黒字で走らせ続けた要諦を「仕組み」として言語化した一冊だ。ヒット商品や勢いに頼るのではなく、黒字を再現できるルールを会社の中に組み込んでいく。大山氏はその考え方を、設備投資、新製品開発、人のまとめ方、理念の言語化まで、実務の視点で整理している。
“Never let something important become urgent." - Eliyahu M. Goldratt
(重要なことを、緊急事態に変えるな - エリヤフ M. ゴールドラット)
これは、イスラエル出身の物理学者であり経営コンサルタントでもあるエリヤフ M. ゴールドラット博士の言葉です。ゴールドラット博士は、部分の改善ではなく、組織全体で最大のアウトプットを生み出すことを目的とする制約理論(TOC:Theory of Constraints)を提唱したことで知られています。会社のメンバーや部署がそれぞれの最適解に向かって努力したとしても、それが会社全体の最適解につながるとは限りません。
本書で大山氏の考えに触れて感じたのは、アイリスオーヤマには「全体最適」を常日頃から実践する企業風土があるということでした。特に印象に残ったのが、アイリスでは“あらゆる設備の稼働率を7割以下にとどめている”という点です。この考え方は多くの方にとって直感に反すると思いますし、稼働率10割を目指さないことに「もったいない」と感じる方もいるでしょう。
しかし製造業では、原材料費の変動や需要の変動など、コントロールが難しい外部要因によって生産が左右されることが少なくありません。たとえば「今日は注文が急に増えた」「急な欠品で特急対応が入った」「材料が予定どおり届かない」といった事態です。こうした変動がある世界で設備を常に100%稼働させてしまうと、工程間に“行列”が生まれます。行列ができれば、納期は伸び、品質確認は後回しになり、現場は火消しに追われる。冒頭の言葉にもあるように、まさに「重要なこと」が「緊急事態」に変わってしまうのです。
だからこそ、アイリスの稼働率7割という“余白”は、いかなる時代でも全体最適を生み出すための仕組みなのだと感じました。制約理論が説くように、全体の流れはボトルネックで決まります。ボトルネックで止まらないよう余力を残し、投入量や優先順位を整えることで、全体のスループットを守る。アイリスがこれまで数々の危機を乗り越え、需要にも瞬発力をもって応えられてきたのは、運や根性ではなく、平時の設計から生まれているのだと思います。
また、アイリスがいかなる時代も利益を出してきた背景には、「大企業病」を防ぐ仕組みが会社に組み込まれている点もあるでしょう。代表例として挙げられるのが、KPIに「新製品比率50%」を掲げていることです。アイリスは売上高に対する研究開発費の比率を常に4%に保っており、たとえヒット商品で売上が伸びたとしても、研究開発への投資を緩めない姿勢がうかがえます。
一般的に企業は、会社規模が大きくなるほど「知の深化」(既存の知識を改良していく活動)に偏りがちです。たとえば、既存のヒット商品の生産効率を高める取り組みがそれに当たります。確かに知の深化は短期的な利益につながりやすく、持続的イノベーションを生み出すうえでも欠かせません。
ただし忘れてはいけないのは、同時に「知の探索」(新しい知を求める活動)をおろそかにすると、長期的な成長は見込みにくくなるということです。たとえばカシオ計算機が1995年に開発し、デジタルカメラブームの先駆けとなった「QV-10」は、業務として正式に認められていない「非公式の研究開発」(いわゆるヤミ研)から生まれた商品として知られています。電子スチルカメラ開発の失敗により社内に慎重論が強い中でも、あきらめきれない技術者たちが正規業務の後に研究を続け、それが結果として大ヒットにつながったといわれます。
しかし、知の探索を個人の情熱に委ねるだけでは、再現性を担保しにくい。そこでアイリスは、過去のヒット商品に縛られないためにKPIに「新製品比率50%」を掲げているのだと思います。属人的な頑張りに頼らず、会社として新しい挑戦が続く状態を仕組みにしているのです。大企業病に陥らず、イノベーションの停滞を避けるには、組織として「知の探索」と「知の深化」のバランスを保つ必要があります。まさに、この「両利きの経営」を仕組みとして回せていることが、アイリスの強みなのだと感じました。
本書を通して見えてくるのは、稼働率をあえて抑えることも、新製品比率をKPIとして掲げることも、すべては“その場しのぎ”を減らし、現場から“緊急事態”を遠ざけるための設計だということです。だからアイリスは、オイルショックの時も、バブル崩壊後も、そしてコロナ禍後の反動局面においても、致命的な経営危機に陥らず、安定した成果を積み上げてこられたのでしょう。
重要なことに集中できる時間を、会社として確保する。その積み重ねが、危機のときに慌てず、需要が来たときに躊躇なく応えられる強さにつながっていくのだと思います。
アイリスでは、あらゆる設備の稼働率を7割以下にとどめています。注文が増えて7割を超えるようになったら、工場を増床するか、工場を新たに建てる。もちろん、具体的な需要があって増やすわけではないので、普段はただの予備スペースです。けれど、何かの需要が急に出現したときに、その予備スペースで瞬時に増産できる。他社とは瞬発力が違うのです。(No.179)
二度とリストラをしないよう、利益を出し続けることが私の中で絶対条件でした。仕組みという言葉にこだわったのは、個々の製品は重要ではないことをオイルショックで学んだからです。ヒット商品に頼っていると、製品開発力が弱まり、時代の変化に適応できなくなるというリスクも生じます。それを防ぐのが、仕組みです。(No.269)
バブル崩壊後の価格破壊で改めて学んだことは、新製品比率を高く維持することの重要性でした。ヒット商品に頼りすぎてはいけないことはオイルショックで学びましたが、仕組みがないと、易きに流れて新製品開発は滞る。いかなる時代でもしっかりと利益を出すには、新製品を一定以上、持たなければならない。(No.513)
社員が安心して働けるように給与体系や福利厚生制度を整えることも大切ですが、会社が小さなうちはトップの人間的魅力で社員をまとめるしかない。そのためには社長は人の2倍、気遣いができないと務まりません。(No.1526)
私は、企業とは第一に「企業理念を共有している組織」だと捉えています。単に人が集まっているだけの集合体でなく、ある使命を共有した組織。家族とも学校とも違います。 企業が企業である理由を突き詰めれば、それは理念の共有なのです。たとえ社員が1人でも、一心同体になるためには、明確な言葉で示された理念が不可欠。私の場合も企業理念を明確にしたから、会社を再生できました。(No.2526)

AUTHOR天野 勝規
株式会社まほろば 代表取締役
士業専門のホームページ制作会社「株式会社まほろば」の代表取締役。大阪教育大学 教育学部 卒業。総合小売業(東証プライム上場)、公益法人での勤務を経て29歳で起業。
独立開業時の集客・顧客開拓に関する相談から、年商数億円規模の事務所のマーケティング顧問まで幅広い対応実績。15年間で3,000事務所以上からご相談・お問合せ。
ホームページを活用しつつも、SEO対策だけに頼らない集客・顧客開拓の仕組みづくりを推奨している。
【保有資格】
社会保険労務士、年金アドバイザー2級
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