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2026.03.30|経営・マネジメント
楠木建の頭の中
戦略と経営についての論考
著者:楠木建
出版社:日経BP 日本経済新聞出版
発売日:2024年11月14日
著者について
ミクロ経済学の理論では「完全競争下での余剰利潤はゼロになる」と言われている。つまり、競合が増え、競争が激しくなるほど、1つの企業が得られる利益は限りなくゼロに近づいていく。実際、価格競争に巻き込まれ、売れているのに儲からないという状況は、多くの企業にとって珍しくない。
一方で、現実には競争のただ中にありながら、他社を上回る利益を持続的に生み出し続ける企業が存在する。なぜ、一部の企業だけがそうした強さを保てるのか。本書は、その問いを軸に、経営学者・楠木建氏がこれまで書き継いできた論考を編み直し、戦略と経営の本質を解きほぐしていく一冊である。
本書を読むことで、企業の強さを一時的な成功や流行の施策ではなく、長く利益を生み出す仕組みとして捉える視点が得られる。戦略を表面的な手法の集まりではなく、因果関係の通ったストーリーとして考え直させてくれる一冊だ。
『私は終生、「踏み切り」「割り切り」「思い切り」の「三切り主義戦略」と、「研究」「普及」の「ニキュー戦術」を経営哲学のモットーとした』-山田晁
経営者の使命は、「長期的利益の創出」の一点にある。利益を生み、納税することこそ、企業の社会貢献の本筋である。これが、著者・楠木建氏の一貫した主張です。では、そうした長期的利益を実際に生み出している企業とは、具体的にどこなのでしょうか。本書を読みながら、私が真っ先に思い浮かべたのは、空調事業を手がけるダイキン工業でした。
ダイキン工業は2025年3月期に売上高4兆7,523億円、営業利益4,017億円を計上し、売上高・営業利益ともに3期連続で過去最高を更新しました。統合報告書によれば、2005年3月期と比べて売上高は6.5倍、営業利益は6.7倍に伸びています。この成長は、一時的な好況や特需によるものではなく、長い時間をかけて築かれた収益基盤の強さを物語っているように思います。
そして冒頭の言葉は、同社創業者・山田晁氏が、後年に著した『経営戦法』(1963年)の中で、自らの経営経験を総括するように記したものです。山田氏はこの本の中で、経営戦略を「踏み切り、割り切り、思い切り」の「三切り」、経営戦術を「研究、普及」の「二及」、そして経営戦力を「蓄積」と整理しています。
実際、ダイキンの歩みをたどると、この言葉の意味がよくわかります。山田氏は1924年に大阪金属工業所を創業し、1933年にはフッ素系冷媒の研究に着手、1935年には日本初のフロン生産に成功しました。さらに1951年には日本初のパッケージエアコンを開発し、同社が大きく飛躍するきっかけをつくっています。
大阪商工会議所創立120周年を記念して開設された大阪企業家ミュージアムは、山田氏の口癖が「人のやらない新しい製品を開発し、国のために役立ちたい」だったと紹介しています。「三切り主義戦略」と「ニキュー戦術」は、まさにそうした新製品開発と事業化の現場から生まれた言葉だったのだと思います。踏み切って挑戦し、必要な犠牲は割り切って引き受け、見込みがなければ思い切って退く。そして研究したものを、普及させるところまでやり切る。その積み重ねが、いまのダイキンの土台になっているように見えます。
楠木氏は本書の中で、競争戦略の要諦は、業界のなかで“独自のポジション”を確立することにあると説いています。ただ他社よりも技術力が優れているだけでは、持続的な競争優位は築けません。「ベター」ではなく「ディファレント」な存在になることで、はじめて模倣されにくい強みが生まれ、価格競争に巻き込まれない長期的利益へとつながっていくのです。
そして私は、その「違い」を生み出す判断の型こそが、山田氏のいう「三切り主義戦略」だったのではないかと思いました。踏み切ることで、他社がまだ手を出していない領域へ先に入る。割り切ることで、目先の不利や負担を引き受けながら、自社ならではの技術や事業に資源を集中する。思い切ることで、見込みの薄い選択肢に執着せず、次の挑戦へ素早く移る。つまり三切り主義戦略とは、他社と同じ土俵で戦うための考え方ではなく、自社だけの土俵をつくるための考え方だったのではないでしょうか。
2024年、ダイキンは創業100周年を迎えました。楠木氏の言葉を借りれば、同社の強さは単に「優れた製品をつくってきた」ことにあるのではなく、空調という事業領域のなかで、自社ならではの“独自のポジション”を築いてきた点にあるのだと思います。
競合他社に追いつかれまいとして、不得意な領域まで無理に広げ、総花的に「何でもできる会社」を目指すのではなく、自社が本当に価値を発揮できる領域を見極め、その強みを時間をかけて磨き続けること。楠木氏のいう「ベター」ではなく「ディファレント」とは、まさにそういうことなのだと思います。何ができるかを増やすこと以上に、どこで勝つのかを定め、その土俵を深く掘り下げていくこと。その選択と集中を貫くことこそ、経営者にとって最も重要な仕事の一つであり、長期的利益を生み出す源泉なのだと感じました。
経営者の使命は長期利益──資本コストを上回る持続的な利益──の創出の一点にある。企業価値だけではない。顧客満足も結局のところ長期利益に反映される。企業の社会貢献の王道は社会的目的のために使うことができる原資を創出することにある。利益を出し納税する。そこに企業の社会貢献の本筋がある。喫緊の課題である賃上げにしても根本は同じだ。元手がなければ労働分配できない。稼ぐ力こそが持続的な賃上げを可能にする。長期利益はすべてのステークホルダーをつなぐ経営の王道だ。(P.10)
競争戦略の要諦は業界のなかで独自のポジションを確立することにある。言い換えれば、顧客から見て、「ベター」ではなく、「ディファレント」な存在になるということだ。品質や機能の点で他社より優れていても、持続的な競争優位にはならない。比較級の次元では、一時的に優位であっても、すぐに追いつかれてしまう。一時的な利益は獲得できても、長期利益はおぼつかない。(P.12)
日陰戦略の美点は競合に対する「障壁」や「防御」を必要としないことにある。敵が「やりたいけれどできない」のではない。そもそも「やる気がない」のである。ライバルによる直接競争の「忌避」、ここに競争優位のカギがある。(P.29)
もちろんシリコンバレーに学ぶことは多々ある。しかし、それを自国や自社の文脈にうまく移植できなければ成果は生まれない。そもそも超多産多死の生態系は万能ではない。インターネットのような変化の激しい、しかもオペレーションの蓄積をそれほど必要としない情報技術には完璧にフィットしても、それとは異なる性格を持つビジネスにとっては、かえって仇になる面もある。(P.151)
1965年に幸之助は新聞に意見広告を出した。タイトルは一言、「儲ける」。「今日、企業の儲けの半分は、税金として国家の大きな収入源となり、このお金で道路が造られたり、福祉施設ができたり、また減税も可能になり、直接に間接に全国民がその恩恵を受けているのであります。……みなさま、適正な競争で適正に儲けましょう。そして、国を富ませ、人を富ませ、豊かな繁栄の中から、人びとの平和に対する気持ちを高めようではありませんか」──名ばかりの「パーパス経営」が横行する昨今、経営の王道を往く言葉にはひときわ重みがある。(P.270)

AUTHOR天野 勝規
株式会社まほろば 代表取締役
士業専門のホームページ制作会社「株式会社まほろば」の代表取締役。大阪教育大学 教育学部 卒業。総合小売業(東証プライム上場)、公益法人での勤務を経て29歳で起業。
独立開業時の集客・顧客開拓に関する相談から、年商数億円規模の事務所のマーケティング顧問まで幅広い対応実績。15年間で3,000事務所以上からご相談・お問合せ。
ホームページを活用しつつも、SEO対策だけに頼らない集客・顧客開拓の仕組みづくりを推奨している。
【保有資格】
社会保険労務士、年金アドバイザー2級
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