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2023.09.02|経営・マーケティング
『百戦百勝は善の善なる者に非ず』−孫子
古代中国から伝わる「孫子の兵法書」は、戦略、戦術、人間の性質に関する洞察に優れた戦略書のひとつ。 その思想は現代ビジネスの経営戦略にも通じます。
冒頭の言葉は、戦争で百回戦って百回勝つ者が真に優れた戦士ではないと説いています。
真に優れた戦士は戦わずして勝利を収める者。そして、戦うことなく敵を屈服させる方法を見つけることが最も賢明であるという考えを示しています。
ブルー・オーシャンとは、大海原の青い海。競争のない新しい市場を意味します。
大航海時代の探検家たちが未知の大陸を探し求めたように。いまだ誰も手を付けていない新たな市場領域を見つけ出し、そこで新しい価値を提供すること。これこそが「ブルー・オーシャン戦略」の目指すべき航路なのです。
目次
「ブルー・オーシャン戦略」とは、競合のいない新しい市場を開拓する経営戦略です。
この戦略は、W・チャン・キムとレネ・モボルニュによって提唱されました。彼らの共著「ブルー・オーシャン戦略」は、世界中の経営者やマーケターに大きな影響を与えています。
この戦略の着目点は、市場の競争を避けることだけではありません。
新しい市場で、顧客にとって真に価値のある製品やサービスを提供することに焦点を当てています。ブルー・オーシャン戦略は、今日のビジネス界において欠かせない概念のひとつになっているのです。
中小企業が生き抜くためにはブルー・オーシャン戦略が必要不可欠です。競合のいない市場で、独自の価値と差別化を追求していかなくてはなりません。
資源が限られる中小企業は、レッド・オーシャンでの競争を避けるべきなのです。レッド・オーシャンとは、競争が激しい既存の市場を指します。この「レッド」は、競合企業間の戦いが激化し、市場が血で赤く染まる様子が連想されるでしょう。
本章では、ブルー・オーシャン戦略の強みとレッド・オーシャンとの違いについて解説します。
「ブルー・オーシャン戦略」の代表的な成功事例として、カナダのエンターテイメント企業シルク・ドゥ・ソレイユが挙げられます。シルク・ドゥ・ソレイユは、伝統的なサーカス業界の枠組みを超えて、まったく新しいエンターテイメントを創り出しました。
このシルク・ドゥ・ソレイユの事例からブルー・オーシャン戦略の強みを解説します。
芸術と舞台演劇を組み合わせた新しい市場を創造。シルク・ドゥ・ソレイユは動物を使わず、ストーリー性と芸術性を高めたパフォーマンスを提供しました。このパフォーマンスは従来のサーカスにはなかった魅力です。
シルク・ドゥ・ソレイユは、新たな顧客層を開拓。これまでの伝統的なサーカスは、子どもがおもなターゲットでした。そこへ、大人も楽しめる高品質なエンターテイメントを提供したのです。
シルク・ドゥ・ソレイユは、他のサーカスとは一線を画す独特の価値を創り上げます。美しい衣装、独自の音楽、驚異的なアクロバット。これらの演出が反映された高額のチケットは、その価値を理解する顧客から支持を得ることに成功します。
他のサーカスとはまったく異なる分野へ進出したシルク・ドゥ・ソレイユ。他社と直接競い合うのではなく、新しいブルー・オーシャンを創造したことで、類似する競合がほとんどいない状態を創り上げます。
以上の事例からも、ブルー・オーシャン戦略の力強さが見て取れるでしょう。シルク・ドゥ・ソレイユは、いまや世界中で支持される独自のエンターテイメントブランドを築き上げたのです。
レッド・オーシャンでは、同業が同じ顧客層をターゲットにします。そして、同じニーズを満たそうとするため、競合との差別化が困難に。結果として、価格競争が発生し利益率が圧迫されることが多くなるのです。
ブルー・オーシャン戦略はこのような難題を巧みに回避します。競争の激しいレッド・オーシャンから離れ、競合のいない平和な海「ブルー・オーシャン」へと舵を切る。企業は市場競争から解放され、自社の持つポテンシャルを最大限に発揮できるようになるでしょう。
『先に戦地に処りて、敵を待つ者は佚し、後れて戦地に処りて戦いに趨く者は労す。故に善く戦う者は、人を致して人に致されず』−孫子
先に戦場にいて敵を待つ軍は楽に戦え、後から戦場にたどり着いた軍は苦戦を強いられる。したがって、戦い上手な者は自身が主導権を握り敵を思うがままに翻弄し、けっして自身が翻弄されることはないのだと孫子は説いています。
企業経営においても、先行して自身が有利な状況を作っておくことが重要です。敵よりも後から戦場に着いた場合、待ち構えているのは休む間もない戦いの日々でしょう。戦いで疲弊して手遅れにならないように、まずは自身の立ち位置を見直す必要があります。
ビジネスの航路を進めていくと知らない間に嵌っているレッド・オーシャン。ここでは、中小企業が陥りやすいレッド・オーシャンの罠を紹介します。
市場飽和は船の行く手を阻む「大きな壁」です。
既存の市場が成熟してくると競争が激化します。競争相手は増え続けますが、新規顧客は大きく増えることはありません。この成熟した市場では、隣の顧客を奪い合う構図に陥ります。
価格競争をひとことでいうと「底なし沼」です。
一度競争に巻き込まれると、なかなか抜け出せず、利益率の低下や品質の犠牲につながります。中小企業が生き残るためには、価格競争に陥らず自社の商品やサービスがもたらす「真の価値」に注力するべきなのです。
これらのレッドオーシャンの罠を乗り越えていくには、「バリュー・イノベーション」が求められます。バリュー・イノベーションとは、顧客に新しい価値を提供し、新しい市場を切り開くことを指します。罠から脱出するには、「顧客への価値づくり」へと意識を変えていかなければなりません。
ブルー・オーシャン戦略のキーとなる考え方のひとつに、「ブルー・オーシャン・シフト」があります。この思想は競争が激しく激戦となっているレッド・オーシャンから、競争がない未開拓の市場、すなわちブルー・オーシャンへと舵を切ることを意味します。
「ブルー・オーシャン・シフト」は容易な航路ではありません。未開の市場への進出はリスクが高く、また多大な労力を必要とします。だからこそ、この「シフト」は一時的なものではなく、組織全体が持続的に取り組んでいかなければなりません。
ブルー・オーシャン・シフトを成功させるには、「競争」から「価値創造」に焦点を合わせていく必要があります。まず顧客の視点に立つこと。そして、顧客が求めているものは何か、どのような価値を提供すれば満足してもらえるのかを探求する。その答えをもとにビジネスを展開していくことが重要です。
世界には多くのブルー・オーシャン戦略の事例があります。ここでは、2つの成功事例を紹介します。
『千里を行きて労せざる者は、無人の地を行けばなり。攻めて必ず取るは、其の守らざる所を攻むればなり』−孫子
千里もの長距離を遠征しても疲労が少ないのは、敵のいないところを進むからである。そして、敵の守りの薄いところを攻めれば負けることはない。
この孫子の言葉は企業経営に置き換えても同じことが言えます。つまり、敵がいない市場に進めば勝てると説いているのです。
Wiiの成功は、ブルー・オーシャン戦略を示す好例のひとつ。
ゲーム業界の大御所といえば「任天堂」。そして、いまや代表的な商品となったのが「Wii」です。これまでのゲーム業界は、高度な技術と複雑な操作性を求めるハードコアゲーマーがおもなターゲットでした。
そこで任天堂はWiiによって異なるアプローチを試みたのです。操作が容易なWiiリモコンを導入し、直感的な動きでゲームが楽しめる機能を提供しました。この画期的な機能が、これまでのゲーム市場を変えます。子どもから高齢者まで、幅広い年齢層や家族全体を対象とした新たな市場を開拓しました。
『水は地に因りて行を制し、兵は敵に因りて勝を制す。故に、兵に常勢無く、常形無し。能く敵に因りて変化して勝を取る者、之を神と謂う』−孫子
水は地形によって流れを決め、軍は敵の形によって勝利を制する。したがって、軍には決まった勢いというものはなく、決まった形もない。敵の動きに応じて柔軟に変化して勝利をもたらす、これを神妙というのである。
企業経営とは水のようなもの。時代やマーケット、そして顧客の求めるニーズに応じて形を変えていかなければなりません。従来までのやり方に縛られた経営では、変わりゆく地形や障害にぶつかったときに乗り越えて行けないでしょう。
QBハウスの成功は、多くの企業にとっても参考になるモデルケースです。
QBハウスのサービスは、「10分で1,000円」というシンプルな格安散髪サービス。予約不要で待ち時間がほとんどなく、速やかに散髪サービスが受けられることが特徴です。
従来の理容室や美容室は、カットだけでなくシャンプーやマッサージなどの付加サービスを提供しています。そして、付加サービス分の時間と費用がかかるのが一般的でした。QBハウスは、付加サービスを省くことでコストと時間を大幅に削減。新しい市場を創出したのです。
その結果、散髪にかかる時間と費用を気にする顧客層から高い支持を受け、日本国内外で急速に店舗を拡大しています。
ブルー・オーシャン戦略は、競争の激しい「レッド・オーシャン」から脱却し、競合のいない新しい市場「ブルー・オーシャン」を創造する戦略です。この戦略は、市場による競争を避けるだけでなく、価値創造を通じて新しい顧客層をつかむことに着目しています。
シルク・ドゥ・ソレイユは、サーカス業界の伝統を打破し、まったく新しいエンターテイメント市場を開拓しました。ブルーオーシャン戦略は、ビジネスの革新と成長を目指す中小企業にとって、価値のある戦略になるでしょう。
AUTHOR天野 勝規
株式会社まほろば 代表取締役
士業専門のホームページ制作会社「株式会社まほろば」の代表取締役。大阪教育大学 教育学部 卒業。総合小売業(東証プライム上場)、公益法人での勤務を経て29歳で起業。
独立開業時の集客・顧客開拓に関する相談から、年商数億円規模の事務所のマーケティング顧問まで幅広い対応実績。15年間で3,000事務所以上からご相談・お問合せ。
ホームページを活用しつつも、SEO対策だけに頼らない集客・顧客開拓の仕組みづくりを推奨している。
【保有資格】
社会保険労務士、年金アドバイザー2級
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