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「ガリガリ君」が40年以上にわたって愛され続けるニッチ戦略とは

2024.03.29経営・マーケティング

『変わらないものを軸に戦略を立てよ』-ジェフ・ベゾス

これはAmazonの創業者であるジェフ・ベゾスの言葉です。変化の激しいビジネスの世界で生き残るためには、不変の価値を見極め、それを戦略の中心に据えることが重要であると説いています。

ニッチ市場で成功するためには、自社の強みや独自性は何か、顧客にとっての価値は何か、といった「変わらない価値」を見極める力が不可欠です。では、中小企業はどのようにして自社にとっての不変の価値を見つけ、戦略を立てていけばよいのでしょうか。

ベゾスの言葉に込められたニッチ戦略の本質。本記事では、赤城乳業が1981年に販売を開始したアイスキャンディー「ガリガリ君」を例に探っていきます。

常に人気アイスのランキング上位に名を連ねるガリガリ君。子供の頃、駄菓子屋で手に取ったガリガリ君のあの独特のザクザク食感。今なお多くの人の記憶に深く刻み込まれているのではないでしょうか。発売から40年以上経った今でも、ガリガリ君は子供から大人まで幅広い世代に親しまれています。

実は、この成功の背景には、ガリガリ君ならではのニッチ戦略があるのです。

ニッチ戦略とは

ニッチ戦略とは、市場全体ではなく、市場における「隙間=ニッチ」に特化し、その市場でのシェアや競争優位性を高めることを目指す戦略です。つまり、大企業が手掛けるような大量生産・大量販売を避け、特定の顧客層のニーズに応える商品やサービスを提供することで差別化を図ります。

ニッチ戦略は「大企業と正面から戦わない戦略」です。大企業は、規模の利を活かした低コスト生産や、圧倒的な販売網、豊富な資金力を持っています。中小企業がこれらに対抗するのは容易ではありません。そこで重要なのが、ニッチ市場に特化した戦い方となります。

大企業が見落としがちな顧客ニーズを捉え、独自の価値を提供できれば、顧客満足度を高めることにつながります。ニッチ市場の顧客は、自分たちの特別なニーズに応えてくれる企業に対して、強いロイヤリティを持つ傾向があるため中小企業にとって大きな強みとなるでしょう。

赤城乳業「ガリガリ君」のニッチ戦略

赤城乳業のガリガリ君は、ニッチ戦略を見事に実践し大成功を収めた商品です。その成功の背景には、次のような要因が挙げられます。
・低価格
・ユニークな食感
・限定商品 など

ガリガリ君は発売当初から一貫して低価格路線を守りました。1本50円から始まったガリガリ君は、他社製品と比べてもお値打ちで魅力的な価格設定。物価高の影響で他社が値上がりしていく中、ガリガリ君は追従せずにギリギリまで価格を変えない姿勢を貫いたのです。

これは単に「低価格にすればいい」ということではありません。他社との差別化を図る上で重要なのは、「なぜ価格を上げないのか」そして「なぜ価格を上げなければならなくなったのか」という企業姿勢にあると考えます。

2016年にテレビで放映され話題になったのが、ガリガリ君の「値上げCM」です。当時、1本60円で販売を続けてきたガリガリ君に対して、『25年間踏んばりましたが、60→70』というテロップが流れ、社員100人が一斉に頭を下げるCMです。その年の売上は、なんと前年比の11%増。値上げを大々的に告知し、真摯に向き合う姿勢にガリガリ君のファンになった方もいるのではないでしょうか。

ガリガリ君は独特の食感でも差別化を図りました。その名の通り、ガリガリとした食感は、他のアイスキャンディーにはない独自の価値を提供しています。この食感は、ガリガリ君の大きな魅力となり、多くの顧客を引き付けました。競合他社が簡単に真似できない特徴であり、ガリガリ君の競争優位性を確立する上で重要な役割を果たしたのです。

さらに、ガリガリ君は限定商品を積極的に展開しています。「限定」というフレーズには魅惑的な響きがあり、市場の注目を集めるのに効果的です。「ソーダ」「グレープフルーツ」「コーラ」の3種類で始まったガリガリ君は、今やその数150種類以上にものぼります。しかしながら、これだけの種類があると失敗したものもあるようです。2014年に発売された「ガリガリ君リッチナポリタン」は3億円もの損失だったとか…。とはいえ、さまざまな種類の味を楽しめるのは間違いなくガリガリ君の強みのひとつでしょう。

このように、ガリガリ君は、低価格、ユニークな食感、限定商品といった要素を巧みに組み合わせることで、ニッチ市場で大きな成功を収めたのです。

ニッチ市場の選定と参入戦略

それでは、中小企業がニッチ戦略を適用する際の具体的な方法について見ていきましょう。

まず、自社の強みと弱みを客観的に把握することが重要です。自社の製品やサービスの特徴、技術力、人材、ブランド力など、自社の強みを明確にしていきます。同時に、競合他社との比較において、自社の弱みを認識することも重要です。この分析を丁寧にすることで、自社が競争優位を発揮できる分野を特定します。

次に、ニッチ市場の選定と参入戦略を決定します。自社の強みを活かせる市場を探索し、その市場の規模、成長性、競合状況などを分析します。参入戦略においては、自社の強みを活かせる製品やサービスを開発し、ニッチ市場の顧客ニーズに応える方法を追求します。

さらに、市場の選定には「大企業がやれないことは何か」を模索するのも有効な手段です。

たとえばガリガリ君の事例で見ると、商品種類の多さが挙げられます。大企業の場合、失敗するかもしれない商品を販売するのは大きなリスクです。種類が増えることで余剰在庫が生まれたり、ブランドイメージが希薄化したりするかもしれません。また、コスト効率の観点から見ても、多すぎる商品数は生産効率の低下や在庫管理の複雑化によるコスト増加を引き起こします。だからこそガリガリ君は、ブランドイメージに保守的だったり、コスト効率を重視したりする大企業に対抗する手段として「豊富な商品種類」で勝負したのです。

ガリガリ君の限定商品は、消費者の多様なニーズに応えるとともに、ブランドの話題性を高める役割を果たしました。これらの限定商品は、旬の素材を使用したり、トレンドを取り入れたりすることで、消費者の興味を引き付けます。季節限定商品を適度な数で展開することで、売上機会の拡大も図れるのでしょう。

ニッチ戦略の事例を紹介

ここでは、「カーブス」と「モンベル」のニッチ戦略の活用事例を紹介します。

【カーブス】女性専用に特化したフィットネスクラブ

カーブスホールディングスは、女性専用フィットネスクラブ「カーブス」を運営する企業です。カーブスは、「忙しい女性でも無理なく通えるフィットネスクラブ」として人気を集めています。

カーブスは女性専用のフィットネスクラブに特化することで、男性の目を気にせず運動に集中できる環境を提供しています。この明確なターゲティングにより、女性の支持を集めることに成功しました。また、30分間で全身のトレーニングを行うサーキットトレーニングを採用。この短時間で効果的なトレーニング方法は、忙しい女性のニーズに合致しています。さらに、カーブスのトレーニングマシンは、女性の体格に合わせて設計され、使いやすさと安全性に配慮されています。この点も女性に選ばれる要因の一つです。

カーブスジャパンは、女性専用というニッチ市場に的確に照準を合わせました。そして、独自のトレーニング方法と利便性の高さで差別化を図り大きな成功を収めたのです。

【モンベル】アウトドア愛好家からの高い支持

モンベルは、1975年に大阪で創業した日本のアウトドアウェアブランドです。高機能で高品質なアウトドアウェアを提供することで、ニッチ市場で大きな存在感を発揮しています。

モンベルは、「アウトドアライフスタイル」という独自の価値観を提案し、ブランドの差別化を図っています。単にアウトドアウェアを販売するだけでなく、アウトドアを楽しむためのノウハウや情報を発信し、ユーザーとのコミュニケーションを大切にしているのです。

例えば、モンベルは「アウトドアチャレンジ」というイベントを開催。初心者でも気軽に参加できるハイキングやキャンプなどのアウトドア活動を体験できる機会を提供しています。こうした取り組みを通じて、モンベルはアウトドア愛好家との絆を強め、ブランドへの共感力を高めているのです。

ニッチ戦略で勝ち残るためには「不変の価値」が重要

ニッチ戦略は、決して簡単ではありません。市場やニーズの変化に常に目を配り、柔軟に戦略を適応させていく必要があります。

しかし、ガリガリ君の事例が示すようにニッチ戦略を成功させることは可能です。自社の強みを磨き、ニッチ市場のニーズに真摯に向き合い、果敢にチャレンジし続ける。そうした努力を重ねることで、必ずや成果を上げることができるはずです。

Amazonがオンライン書店としてスタートした当時は、インターネット通販はまだ一般的ではなく、多くの人は書店に行って本を購入していました。そのような中で、ベゾスは顧客の求めるニーズは「利便性、品揃え、価格」といった要素を徹底的に追求することで満たされると信じていたのです。

この不変の価値観が、今や総合オンラインストアへと成長を遂げたAmazonの戦略の中心に据えられてきました。

中小企業がニッチ戦略を練る上でも、このような不変の価値観を見出し、それを戦略の軸に据えることが重要です。自社の強みや独自性は何か。顧客にとっての価値は何か。これらの問いに答えを出し、ブレない軸を持つことが、ニッチ市場で成功するための第一歩となるのです。

AUTHOR天野 勝規

株式会社まほろば 代表取締役

士業専門のホームページ制作会社「株式会社まほろば」の代表取締役。大阪教育大学 教育学部 卒業。総合小売業(東証プライム上場)、公益法人での勤務を経て29歳で起業。
独立開業時の集客・顧客開拓に関する相談から、年商数億円規模の事務所のマーケティング顧問まで幅広い対応実績。15年間で3,000事務所以上からご相談・お問合せ。
ホームページを活用しつつも、SEO対策だけに頼らない集客・顧客開拓の仕組みづくりを推奨している。
【保有資格】
社会保険労務士、年金アドバイザー2級

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