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ユナイテッドアローズに学ぶ『パーパス経営』 – パーパス浸透が企業の持続的成長を生む

2024.11.25経営・マーケティング

企業が存在する意義(パーパス)は何か。現代、この問いは非常に注目を集めています。SDGsやESG、DE&Iなど、利益追求だけでなく社会における自社の役割を明確にし、それを軸とした経営を行うことで、持続的な成長を実現しようとしている企業が増えています。

パーパスは、資金や人員的にゆとりのある大企業だけが付加的に設定するものではなく、中小企業が独自の立場を確立するうえでも非常に重要です。パーパス(「社是」や「経営理念」の形で存在することも多い)に則った経営で立場を築いた代表的な事例が、ユナイテッドアローズです。

同社は、セレクトショップという新しい業態を確立し、現在では年商約1,300億円規模の企業へと成長(2024年3月期)。1989年に創業されましたが、バブル崩壊後も高付加価値路線を貫き、一貫した理念を持った経営で成長を遂げています。ビジネス環境の変化が激しいアパレル業界で、持続的な成長を実現できた同社の成功の鍵ともいえる、経営理念についてひも解きます。

創業時からブレない経営理念(パーパス)

ユナイテッドアローズといえば、BEAMS、SHIPSとともにセレクトショップの御三家と呼ばれるアパレル企業。セレクトショップ業態としては日本最大級となっています。

「THE STANDARD OF JAPANESE STYLE」。1989年に創業し、翌年渋谷に1号店をオープンしたユナイテッドアローズは、この理念を「創業の志」として掲げました。バブル経済の只中、アパレル業界では「売れれば良い」という風潮が蔓延していた時代。そんな中で同社は、「本当の価値とは何か」を常に問い続けてきました。

当初は、メンズのビジネス衣料を扱う仕入中心のセレクトショップとしてスタートしました。その後、ドレス・カジュアルのメンズ・ウィメンズ衣料と生活雑貨を展開。セレクトアイテムとオリジナルアイテムを合わせて品ぞろえする「セレクト編集型SPA」へと進化しています。

ユナイテッドアローズの特徴的なところは、創業当初から、志である「THE STANDARD OF JAPANESE STYLE」や、経営理念の根幹である「生活文化のスタンダードの創造」「店はお客様のためにある」を、すべての企業活動や判断の軸としている点。まだ「パーパス経営」という言葉もない時代から、理念となる想いを重視し、時代の荒波の中でブレない経営を行ってきたことは、同社の強みであり魅力となっています。

また2001年からは社会との約束として、「5つの価値創造」を掲げています。「5つの価値創造」とは、お客様、従業員、取引先、地域社会、株主に対する価値提供を明確にしたものです。特に重視されたのが、「お客様価値の創造」。「お客様価値の創造」が成り立って初めて他の4つの価値が意味を成すと考え、「ヒト・モノ・ウツワの安全性と品質」「適正な表示とわかりやすい情報提供」「クレームの迅速な対応と活用」など独自の行動指針を定め、遵守しています。

パーパスを実現する仕組みづくり

ユナイテッドアローズの現在の経営理念の中で、サブメッセージに書かれた特徴的な一文があります。

真心と美意識をこめた「ヒト・モノ・ウツワ」を通じてお客様一人ひとりが自分らしく装い、暮らし、心豊かな明日を過ごしていただく。

この「ヒト・モノ・ウツワ」の概念も、同社の競争優位性として働いています。
これらはお客様に満足を提供する3要素と位置付けられ、
ヒト=接客・サービス
モノ=商品
ウツワ=施設・空間・環境
と定義されています。

実店舗を持つアパレル企業には、従業員の接客(ヒト)、売り物となる商品(モノ)が必須であることは間違いありません。そして、お客様がヒトとモノを体験できる場としての「ウツワ」を重視することで、店舗はもちろん、オンラインストアを含めたお客様への提供価値を高めていく考え方です。

アパレル業界では、「カリスマ」と呼ばれるバイヤーやショップ店員が脚光を浴びるケースが多々あります。しかし同社では、個人の能力や個性に依存するのではなく、組織としての価値提供を重視した施策を行っています。

ファッション業界に特化したオリジナルのマーケティング・ブランディング研修プログラムを開発したり、部門や職域を問わない教育機会を提供したりと、「人的資本経営」の名にふさわしい人事施策が多様に行われているのです。この結果、従業員のエンゲージメントスコアは上昇し、離職率も5%ほど改善されたといいます。

それらの背景には、必ず経営理念、つまりパーパスがあります。企業活動のすべてがパーパスから紐づいて行われていることで、ブレない経営、社員が辞めない経営ができているのです。

中小企業にとってのヒント

パーパス経営の意義は、「企業と社会の持続的な共存」を可能にする点にあります。経営学者のマイケル・ポーターが提唱した「共通価値の創造(CSV:Creating Shared Value)」の考え方に基づけば、企業の競争優位性は、社会性(社会的価値)と経済性(経済的価値)の両立から生まれます。

ユナイテッドアローズの事例は、この理論を実践の中で証明していると言えます。
では、この事例から中小企業経営者はどのようなヒントを得られるでしょうか。

パーパス経営は企業規模に関係なく実践可能

ユナイテッドアローズは、一中小企業からスタートし、アパレル業界を代表する企業になりました。大企業よりもむしろ規模が小さい企業の方が、経営者の想いを直接伝えやすいというメリットもあります。中小企業だからこそ、全従業員とパーパスを共有し、一枚岩の組織を作りやすいのです。

パーパスに基づく人材育成が競争力の源泉になり得る

マニュアルや細かなルールではなく、パーパスに基づく判断力を育てることで、組織の対応力は大きく向上します。これは、人材の流動性が高まる現代において、特に重要な視点といえます。

パーパスに基づく意思決定の重要性

景気の変動や市場環境の変化が起こった時も、パーパスという軸があればブレない判断が可能になります。昨今のような不確実性の高い環境下では、この点が一層重要になってきています。

パーパス経営の本質的メリット

このような成果をもたらすパーパス経営は、本質的に以下のような3つのメリットが考えられます。

長期的視点が得られる

パーパスが存在することで、目先の利益追求を超えた判断基準を持つことができます。一時的な市場の変動に左右されない、持続可能な経営判断が可能になります。

ステークホルダーとの関係が深まる

パーパスを共有することで、従業員、顧客、取引先、社会との間に強い絆が生まれます。経営学者エドワード・フリーマンが提唱した「ステークホルダー理論」では、「企業は株主だけでなくあらゆるステークホルダーを重要視すべき」と説かれていますが、まさにパーパス経営は、それを可能にします。

イノベーションを促進する

パーパスは、組織のクリエイティビティを高める触媒となります。社会的価値と経済的価値の両立を目指す中で、新しいビジネスモデルや価値提供方法が生まれやすくなるのです。

さいごに

デジタル化やグローバル化により、ビジネス環境の変化は加速しています。そんな中で、変わらない軸としてのパーパスの重要性は、むしろ増しているといえるでしょう。パーパス経営は、単なる「理想論」ではありません。ユナイテッドアローズの事例は、パーパス経営が、持続的な成長をもたらす実践的な経営手法であることを示しているのです。

AUTHOR天野 勝規

株式会社まほろば 代表取締役

士業専門のホームページ制作会社「株式会社まほろば」の代表取締役。大阪教育大学 教育学部 卒業。総合小売業(東証プライム上場)、公益法人での勤務を経て29歳で起業。
独立開業時の集客・顧客開拓に関する相談から、年商数億円規模の事務所のマーケティング顧問まで幅広い対応実績。15年間で3,000事務所以上からご相談・お問合せ。
ホームページを活用しつつも、SEO対策だけに頼らない集客・顧客開拓の仕組みづくりを推奨している。
【保有資格】
社会保険労務士、年金アドバイザー2級

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