まほろばブログ
BLOG

経営・マーケティングの基礎知識

BLOG

“静かな退職”を防ぐために – 中小企業が行うべき「エンゲージメント戦略」

2025.10.22経営・マーケティング

近年、「静かな退職(Quiet Quitting)」という言葉が注目を集めています。これは、従業員が仕事への関心や意欲を失い、求められた必要最低限の業務だけをこなすようになる状態を指します。一見すると問題のようにも思えますが、果たしてこの現象は本当に「悪いこと」なのでしょうか。そして、こうした状況に直面したとき、企業はどのように向き合うべきなのでしょうか。
本記事では、「静かな退職」を単なるやる気の低下として捉えるのではなく、その背景にある構造的な要因を探りながら、企業が取るべき本質的なエンゲージメント戦略について解説します。

「静かな退職」とは?窓際族との違い

「静かな退職」とは、会社を辞めるつもりはないものの、心の中では仕事から離れてしまっている状態を指します。表面的には会社の規則を守り、与えられた業務をこなしていますが、自ら進んで新しい課題に挑戦したり、積極的に意見を発したりすることは少なくなります。

定時になるとすぐに退社する、新しい仕事や難易度の高い仕事を避ける、会議であまり発言しない、といった行動が典型です。 仕事を「生活の一部」として割り切り、プライベートとの線引きを明確にする姿勢とも言えます。

ここで、日本企業にかつて見られた「窓際族」との違いを整理しておきましょう。窓際族とは、会社側の判断で主要業務から外され、閑職に置かれた従業員を指します。つまり、組織の意図によって生まれた状態です。一方、「静かな退職」は、本人が自ら仕事への関与を控える選択をした結果にすぎません。組織から排除されたわけではなく、むしろ自分の働き方を調整するかたちで心理的に距離を取っている点が特徴です。

また、窓際族が特定の年齢層や役職に限られていたのに対し、「静かな退職」は年齢や職位を問わず発生します。若手社員から管理職まで、誰もが陥る可能性があるのです。この普遍性こそが、現代の経営者が真剣に向き合うべき理由といえるでしょう。

「静かな退職」は本当に悪いことなのか?

「静かな退職」という言葉は、しばしば否定的に語られます。しかし、少し視点を変えてみると、その現象の裏には組織と個人、双方の課題や価値観の変化が見えてきます。ここでは、企業側と個人側、それぞれの立場から考えてみましょう。

企業から見た「静かな退職」

企業にとって、「静かな退職」は確かに見過ごせない問題です。意欲を失った従業員が増えると、チーム全体の生産性が低下し、創造的な発想も生まれにくくなります。さらに、そうした空気が周囲に波及すれば、組織全体の士気や文化が弱体化する恐れもあります。

しかし同時に、「静かな退職」は単なるリスクではなく、「組織のどこに課題が潜んでいるのか」を示すシグナルでもあります。なぜ従業員が意欲を失ったのか。マネジメントに問題はないのか。評価制度やキャリア支援の仕組みは機能しているのか。こうした問いを立て直すきっかけとして、「静かな退職」を捉えることができれば、企業にとって貴重な自己診断の機会となるでしょう。

個人から見た「静かな退職」

一方、個人の立場から見れば、「静かな退職」は必ずしも否定されるべきものではありません。過度な労働やストレスから自分を守るための“心のブレーキ”として、自然な防衛反応であるとも考えられます。

また、仕事以外の時間を大切にしたいという価値観の表れでもあります。家族との時間や趣味、自己啓発など、仕事以外の領域に重きを置くことは、現代的なライフデザインとして十分に理にかなっています。「仕事中心の人生」から「自分らしい生き方」へと価値観が移りつつある今、「静かな退職」はワークライフバランスを追求する新しい働き方の一形態とも言えるでしょう。

実際のところ、「静かな退職」をしている人の中には、会社からの収入を「生活の基盤」として位置づけながら、副業やクリエイティブな活動に力を注いでいる人もいます。彼らは単に怠けているのではなく、自分の能力や関心をより活かせる場所を社外に見出しているのです。

ただし、望んでそうした状態にあるのではなく、職場環境や人間関係の不満から消極的に「静かな退職」に陥っている場合は、本人にとっても企業にとっても不幸な結果を招きます。だからこそ、企業には、従業員が安心して意欲を発揮できる環境を整える責任があるのです。

まず取り組むべきは「明確なメッセージを示すこと」

「静かな退職」を防ぐための具体的な施策を考える前に、企業が真っ先に取り組むべきことがあります。それは、「どんな人と働きたいか」という方針を明確にすることです。

エンゲージメント(従業員が所属する企業や組織に対して、自発的に貢献したいと考える意欲や、精神的・感情的な結びつきのこと)向上のための制度やイベントを導入しても、根底にある企業の価値観や目指す方向性が曖昧なままでは、成果は一時的なものに終わります。全社員に高いモチベーションを求めるのか、多様な働き方を認めるのか。イノベーションを優先するのか、安定的な業務遂行を重視するのか。まずは、こうした問いに自社として明確な答えを持つことが出発点です。

そのためには、経営層がビジョンやミッション、組織文化について改めて議論し、「私たちはこういう価値観を大切にし、このような働き方をする人とともに成長していきたい」というメッセージを、社内外に向けて明確に打ち出す必要があります。

次に、その方針と現在の従業員構成や採用基準を照らし合わせてみましょう。自社の理念に共感し、自ら行動できる人材を採用できているか。既存の従業員に、会社の方向性がしっかり伝わっているか。この検証を行うことこそ、真のエンゲージメント向上への第一歩です。

そして、もし会社の方針に共感できない従業員が別の道を選ぶことになっても、それは必ずしも悪いことではありません。むしろ、双方にとって健全な選択と言えるでしょう。一方で、価値観を共有する従業員は、より高い意欲と責任感をもって働くようになります。つまり、エンゲージメントを高める本質は、「全員を満足させること」ではなく、「私たちはこういう組織である」と明確に示すことにあるのです。

効果的なエンゲージメント施策

組織としての方針が明確になったら、次はそれを実現するための具体的な行動です。ここでは、従業員のエンゲージメントを高めるうえで特に効果的な4つのアプローチを紹介します。

1on1ミーティングで信頼関係を築く

上司と部下が定期的に1対1で話す「1on1ミーティング」は、エンゲージメント向上の基盤です。最低でも月1回は時間を確保し、上司は“聞く姿勢”を意識しましょう。重要なのは、業務報告のチェックではなく、部下の考えや悩みに耳を傾け、信頼関係を築くことです。互いに率直に話せる時間が増えるほど、従業員は自分の存在が尊重されていると感じ、組織への信頼も高まります。

公正な評価で成果を認める

努力が正当に評価されない職場では、どんな制度を整えてもエンゲージメントは育ちません。評価の基準を明文化し、全社員に共有することで、公平性と透明性を担保しましょう。数値目標や行動指標など、客観的に判断できる仕組みを導入することも効果的です。そして何より大切なのは、評価結果をきちんと処遇やフィードバックに反映すること。「頑張れば報われる」という実感があってこそ、従業員は次の挑戦に向かう意欲を持てるのです。

成長の機会を提供する

人は、自らの成長を感じられるときに最も高いモチベーションを発揮します。社内研修の充実や外部セミナーへの参加支援など、学びの機会を積極的に提供しましょう。その際、画一的な教育ではなく、従業員一人ひとりのキャリアビジョンに沿った支援が重要です。「会社が自分の成長を本気で応援してくれている」と感じられることが、エンゲージメントを大きく押し上げます。

柔軟な働き方を実現する

リモートワークやフレックスタイム制など、柔軟な働き方の選択肢を整えることは、今や不可欠です。制度を導入する際は、従業員の声を丁寧に拾い、適用条件を明確にして公平に運用することが大切です。また、単に制度を設けるだけでなく、コミュニケーションが希薄にならない仕組みを設計しましょう。必要なIT環境を整えつつ、オンラインでも自然な交流が生まれる工夫が求められます。「どこで働くか」よりも「どうつながるか」を意識することで、組織への一体感が生まれます。

エンゲージメント向上がもたらす好循環

こうしたエンゲージメント向上の取り組みは、「静かな退職」の防止にとどまらず、組織全体に多面的な好影響をもたらします。

まず挙げられるのは、生産性の向上です。従業員一人ひとりが自ら考え、主体的に動くようになることで、業務の効率化が進み、マネジメントにかかるコストも軽減されます。

次に、離職率の低下です。自分の仕事にやりがいと納得感を持てる従業員は、長く会社に留まり、採用や教育にかかるコストを抑えることができます。さらに、経験豊富な人材が定着することで、組織内に知識やノウハウが蓄積され、企業の競争力が継続的に強化されます。

また、イノベーションの創出も期待できます。エンゲージメントの高い従業員ほど、新しいアイデアを積極的に提案し、実現に向けて行動します。その姿勢が組織全体に広がれば、創造的な製品やサービスが生まれやすい文化が醸成されるでしょう。

さらに、顧客満足度の向上にも直結します。従業員が自分の仕事に誇りを持ち、主体的に動くことで、サービスや対応の質が自然と高まり、顧客からの信頼と評価を得やすくなります。

これらの要素が連鎖的に作用し、最終的には企業業績の改善へとつながります。生産性の向上、離職率の低下、イノベーションの促進、顧客満足度の向上…これらすべてが企業の持続的な成長の基盤となるのです。そして、「従業員が生き生きと働く会社」という評判は、採用市場におけるブランド力を高め、優秀な人材をさらに惹きつける好循環を生み出します。エンゲージメント向上は単なる人事施策ではなく、企業の未来を形づくる中核的な経営戦略なのです。

まとめ

「静かな退職」という現象は、従業員個人の問題として片付けるのではなく、組織を見直すきっかけとして捉えることが重要です。まずは、企業として「どんな人とともに働きたいのか」という方針を明確にし、その上で具体的な施策を着実に実行していくことが求められます。エンゲージメントの向上は一朝一夕で達成できるものではありませんが、地道な取り組みの積み重ねが、やがて確かな成果となって現れるでしょう。

従業員一人ひとりが生き生きと働ける組織をつくること。それは、「静かな退職」を防ぐだけでなく、企業の持続的な成長と従業員の幸福を同時に実現するための戦略的な投資であると言えるでしょう。

AUTHOR天野 勝規

株式会社まほろば 代表取締役

士業専門のホームページ制作会社「株式会社まほろば」の代表取締役。大阪教育大学 教育学部 卒業。総合小売業(東証プライム上場)、公益法人での勤務を経て29歳で起業。
独立開業時の集客・顧客開拓に関する相談から、年商数億円規模の事務所のマーケティング顧問まで幅広い対応実績。15年間で3,000事務所以上からご相談・お問合せ。
ホームページを活用しつつも、SEO対策だけに頼らない集客・顧客開拓の仕組みづくりを推奨している。
【保有資格】
社会保険労務士、年金アドバイザー2級

こちらの記事もどうぞ

Mahoroba Pro[まほろばプロ]
士業検索ポータルサイト

士業検索ポータルサイト[まほろばプロ]
日本最大級の士業ホームページ集。
士業の事務所情報を資格・都道府県・相談分野・キーワードで絞込み検索。気になる事務所のホームページへ直接アクセスできます。
まほろばプロ

Mahoroba Design[まほろばデザイン]
士業専門のホームページ制作

士業専門のホームページ制作[まほろばデザイン]
このデザインでこの価格!
初期費用だけでなく、ランニングコストまで低価格を実現。『ホームページにコストをかけたくない、でも無いと困る、できれば素敵なデザインで』を叶えます。
制作費 49,800 税込54,780
維持管理費 月額3,980 税込4,378
まほろばデザイン