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千利休の「利休七則」から学ぶ、書き手の心持ち

2024.01.30ライティング

京都の樂美術館で、黒の茶碗を眺めていました。
黒樂茶碗とはいうけれど、錆と麹と漆が混ざったような複雑な色。ただ「黒」というには、あまりにも重厚で奥深い魅力がありました。

「茶の湯」を完成させた千利休は、職人に命じてこの黒樂茶碗を生み出しました。黒といえば、喪を連想させる不吉な色。それでも利休は、タブーを破って黒樂茶碗をつくるように命じたのです。

利休には「黒」にこだわる理由がありました。
黒樂茶碗をはじめとする「土もの」の茶碗は、それまで使われていた茶碗より低温で焼かれて作られます。そのため熱伝導率が低く、茶碗を持ったときに体温と似た温度になります。

お茶を点てたとき、茶碗が熱くて手で持てない。
利休はそれを許しませんでした。利休は茶碗を黒にすることで、手に伝わる熱を最小限に抑え、手と茶碗が一体化することを良しとしました。私は樂美術館で「究極のおもてなしは茶道にあり」と言われる所以を垣間見ました。

現代っぽく言えば、UX(ユーザー体験)にこだわる。
利休の考え方は茶の湯に限らず、ビジネスの分野でも応用できます。そして、利休の教えは「書く」という知的活動にも応用できると、私は考えています。

戦国時代から令和へ。千利休が残した七つの教え

千利休は生前、次の茶の湯の七つの心得を残しています。

  1. 茶は服のよきように点て(気配りの大切さ)
  2. 炭は湯の沸くように置き(準備の大切さ)
  3. 花は野にあるように生け(自然体でいること)
  4. 夏は涼しく冬暖かに(相手を思いやる心)
  5. 刻限は早めに(ゆとりを持った行動)
  6. 降らずとも傘の用意(何事にも備える姿勢)
  7. 相客に心せよ(互いを尊重し合う気持ち)

これらは「利休七則」とも呼ばれ、茶の湯とはどのような心構えで挑むべきなのかを示したものです。
たとえば「茶は服のよきように点て」では「お茶を点てる際は飲む人のことを考え、ちょうどよい味や温度になるように点てなさい」という、気配り心配りの大切さを伝えています。

素晴らしい技術も美味しいと感じるお茶も、自分の理想だけを表現しているのであれば、飲む人のことを考えているとはいえません。自分の理想を押し付けるのではなく、飲む人が美味しいと感じるお茶こそが本来のおもてなしであり、気配りなのです。

親戚の子どもにお茶を出す場面を想像してください。
お茶に慣れていない子どもに、熱くて渋いお茶を出すと「おじちゃんマズい」と言われます。子どもにとっては、温度や抹茶の量を調整し、少しぬるいくらいの温度で味は濃すぎないもののほうが、美味しいと感じられるはずです。

また、「炭は湯の沸くように置き」は、「美味しいお茶を点てるのには、準備という視点で、お湯の温度が大切」という意味です。

千利休がいた時代は、現代と違っていつでもお湯を準備できるわけではありません。茶の湯を始める前にたっぷりの水と炭を準備しておきます。そして、来客に合わせて最高の状態にした炭を湯が沸騰する最適な位置に配置するのです。

釜で湯を沸かす場合、炭の位置によっては沸騰しないこともあります。そうなると美味しいお茶を点てられません。

炭の位置や炭の置き方は、お茶を点てるという行為の前準備であり裏方の作業です。お客様は炭の位置など気にも止めないでしょう。しかし、その裏方がいるからこそ最高のお茶を提供できていることを忘れてはいけません。

丁寧な準備があるからこそ、お客様に喜ばれる仕事につながるのです。

利休七則から学べるのは書き手に必要な「おもてなしの真髄」

利休七則は、「書き手の基礎」となる心得でもあります。

たとえば、気配り心配りの大切さを伝えている「茶は服のよきように点て」。これは「相手の立場に立って考えよ」という意味です。相手を思う気持ちは、読み手を重要視するライティングには欠かせません。

  • どのような人が読むのか
  • どのような気持ちで読むのか
  • 何を求められているのか

お茶を点てるのも記事を書くのも、「これが正解」はありません。しかし、自分が表現したいものを出すのではなく、相手を想い作ることは正解といえるでしょう。

私なりに、利休七則の意味を書き手目線で捉えてみました。

  1. 茶は服のよきように点て(読者の気持ちを想像する)
  2. 炭は湯の沸くように置き(十分な事前調査を行う)
  3. 花は野にあるように生け(冗長な文章は避ける)
  4. 夏は涼しく冬暖かに(目の前に情景が広がる言葉選び)
  5. 刻限は早めに(早めに執筆に取り掛かり納期を厳守する)
  6. 降らずとも傘の用意(原稿をバックアップしておく)
  7. 相客に心せよ(編集者を尊重したやり取り)

総じていえるのは、利休七則の徹底が、読者と関係者へのおもてなしだということ。

茶道は、お茶を点てて飲んでもらうという非常にわかりやすい行為です。しかし、そのなかには細かな気配りや相手を想う気持ち、時間を大切にする心などおもてなしの心で溢れています。そして利休七則から学べるのは、書き手に必要な「おもてなしの真髄」です。

"経営の神様"松下幸之助の根底には「茶道」があった

ビジネスや日常生活の軸にできる茶道の考え方は、世界中で多くの人に影響を与えています。

経営の神様といわれた松下幸之助もその一人です。

松下幸之助の考える経営の基礎には「素直な心」があります。相手によって優劣をつけず、誰からも謙虚に学ばせてもらう姿勢。自分とは異なる意見が出た際には、まず相手の意見を受け入れて、よいことは素直によいと認識する心を大切にしていました。

そんな松下幸之助は、素直な心を育むのが茶道であると考えていました。

松下幸之助が茶道に出会ったのは42歳。初めてお茶会に呼ばれた際にお茶の魅力に惹かれ、茶道の考えを学び始めました。

茶道には「和敬清寂」という言葉があります。「和やかに・お互いを尊敬し合い・清らかな心を持ち・何事にも動じない」という意味です。松下幸之助は「和敬清寂」を素直な心と捉えて、常に謙虚に仕事に打ち込んでいました。

また、茶道を始めてからは、どれほど忙しくても毎朝お茶を点てて、心を落ち着かせてから仕事に向かっていたとのこと。

どのような仕事でも、忙しくバタバタしているとよいアイディアは浮かびません。「忙」とは、すなわち「心を亡くす」こと。忙しければ、相手を思いやる気持ちを忘れてしまいます。情報に溢れ、仕事とプライベートの区切りがつきにくい現代だからこそ、心を落ち着かせ自分を客観視する方法として、茶道は最適なのかもしれません。

それでも私は、書き続けたい

利休七則には、次の逸話があります。

利休の弟子が、利休に茶道の極意を聞いた。そこで利休が答えたのが利休七則。しかし弟子は「それなら私でも知っている」と答えた。それに対して利休は「できるのであれば私があなたの弟子になりますよ」と伝えたそうです。

この話は「知っていることとできることは違う。当たり前のことを実践するのは難しい。」という意味がこめられています。
「書く」とは、非常に繊細な知的活動です。少しの表現の差が、他人を救ったり、はたまた傷つけたりします。荒削りに、ぶっきらぼうに言葉を投げれば、相手は「痛い」と感じます。反対に、じっくりと考え、ひとつひとつの言葉を丁寧に紡いでいけば、相手の人生に大切な気づきを与えることもできます。誰もが知っている、当たり前の事実です。

しかし、その「当たり前」を実践するのは本当に難しい。優しく投げたつもりの言葉で、相手が怪我をしてしまうこともあります。じっくり考え、頑張って紡いだ言葉を、相手が受け取ってくれないこともあるでしょう。

それでも私は一人のクリエイターとして、書き続けたい。利休の黒樂茶碗のように、こだわり続けたい。と思います。

AUTHOR天野 勝規

株式会社まほろば 代表取締役

士業専門のホームページ制作会社「株式会社まほろば」の代表取締役。大阪教育大学 教育学部 卒業。総合小売業(東証プライム上場)、公益法人での勤務を経て29歳で起業。
独立開業時の集客・顧客開拓に関する相談から、年商数億円規模の事務所のマーケティング顧問まで幅広い対応実績。15年間で3,000事務所以上からご相談・お問合せ。
ホームページを活用しつつも、SEO対策だけに頼らない集客・顧客開拓の仕組みづくりを推奨している。
【保有資格】
社会保険労務士、年金アドバイザー2級

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