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名文は悪文から生まれる。情報の「大量生産」「大量消費」社会でどう文章を紡ぐか

2024.03.17ライティング

『山路を登りながら、こう考えた。智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。』-夏目漱石

これは文豪・夏目漱石が執筆した『草枕』の一文です。
正論だけを振りかざせば、他人と衝突する。しかし、他人の感情を気遣っていると、自分の足元をすくわれる。そんな、いつの時代も変わらない不条理な人の世を嘆いたこの一節は、今日でも「名文」として人々に語り継がれています。

夏目漱石を愛読している人以外は、「読みにくい」「じっくり読まないと理解できない」という人がほとんどではないでしょうか。

文章の良し悪しは、一般的に「読みやすいか」「一読して理解できるか」が挙げられます。もう少し細かくすると「主語と述語にねじれがないか」「不要な接続詞が使われていないか」「話の展開が論理的であるかどうか」などが挙げられます。

一般的な定義からすると、夏目漱石の文章は決して『読みやすい』文章とは言えません。しかし、「名文」として、今でも人々に親しまれ愛されています。

そこで今回の記事では『悪文』とは何か、『名文』とは何かについて、私なりの考えを展開していきます。

「早く」「たくさん」の情報を伝えることが良しとされる現代

正しい日本語を使えない若者が増えている。これは現代に限らず、私が子どもの頃から言われ続けていることです。特に、最近では正しい日本語を「書けない」「読めない」人が増えているという意見をよく耳にします。読みにくい、わかりづらい文章は、しばしば「悪文」と評されることすらあります。

一方で「悪文」の対義語は「名文」です。名文が数多く生み出された時代としては、やはり明治時代から昭和中期あたりを挙げる方が多いのではないでしょうか。

この時代は、多くの「文豪」たちが華を咲かせた時代とも言い換えられます。なぜ、過去には名文が数多く生み出されていたのか。それは、「多くの人がコミュニケーションで文字を用いていなかったから」なのかもしれません。当時は今と異なり、コミュニケーション手段が発達していない時代です。明治時代の識字率は全国平均では男子が50〜60%、女子が30%程度であったと言われています。そのため、当時のコミュニケーション手段は音声でのやり取りが主流でした。文字や文章は、文字の読み書きができる層に向けた公文書や、専ら文芸や小説といった「娯楽」としての文章を読み書きする際など限定的に使用されていたと考えられます。コミュニケーション手段として文字を使っていたのは、手紙や掲示板くらいではないでしょうか。

一方で、現代では電子メールやSNSの発達により、誰もが文章でコミュニケーションをとる時代となりました。とりわけ、LINEは月間利用者数9,500万人のうち、86%が1日に1回以上利用しています(2023年6月末時点)。人類の長い歴史の中で、「コミュニケーション手段」として文字を使う稀有な時代を私たちは生きています。

コミュニケーションの目的のひとつは、情報を早く伝えることです。正しい日本語を使うことや、美しい日本語を使うことの優先度は、相対的に低くなります。「早く」「たくさん」の情報を伝えることが重視される現代において、「名文」が減り「悪文」が増えたと感じるのは必然なのではないでしょうか。

情報の「大量生産」「大量消費」社会の到来

現代は情報の大量生産時代です。インターネットという産業革命がおき、物理的な制約なく情報を発信できるようになりました。文字メディア、音声メディア、動画メディアを含め、コンテンツ市場は拡大の一途をたどっています。

そして現代は、情報の大量消費時代でもあります。特に動画メディアでは、TikTokやYouTube Shortをはじめ、「短く」「わかりやすい」動画がより一層好まれるようになりました。特に広告業界では「最初の5秒で相手の興味を掻き立てなければ離脱される」と言われるほど、コンテンツ消費者の「興味のリードタイム」は短くなっています。文字メディアよりもわかりやすい動画メディアですら、そのような有様です。含蓄のある、噛めば噛むほど味の出る文章コンテンツは、インターネット上では埋もれてしまうようになってしまいました。

その影響か否かは不明ですが、現に日本人の「文章を正しく読解する力」は低下しているとも言われています。経済協力開発機構(OECD)による学習到達度調査PISA(ピサ)の成人版PIAAC(ピアック)では、日本人の現役世代(15歳〜65歳)の27.7%は「日本語読解力の習熟度がレベル2以下」という結果が出ています。これは、「図書館で目録を指示通りに検索し、指定された書名の著者を検索できない可能性」が高いという水準です。

文章を読み解く力が不足していると、正しい文章を書くのは難しくなります。
「悪文が世に溢れるようになった」と私たちが感じてしまうのは、名文を名文だと感じる感性、すなわち「読解力」が低下してしまったからなのかもしれません。

最初から悪文を生み出そうとする人はいない

どのような世界にも「良し悪し」はあります。たとえば将棋では、形勢を立て直すためにどうしても角や飛車を相手に取らせることがあります。フランス料理などのコース料理では、カトラリーは外側から使う、などの「マナー」があります。悪文とは、言い換えるなら文章における「悪手」や「マナー違反」なのかもしれません。

しかし、「最初から悪文を生み出そうとする人」はいません。夏目漱石も、最初はたくさんの「悪文」を世に出したはずです。羽生善治も、アマチュア時代はたくさんの「悪手」を打ってきたことでしょう。しかし、型を身につけ、失敗から学び、トライアンドエラーを繰り返して初めて「一流」になれた。失敗は成功の母ではないですが、悪文は名文の母なのです。

ただし、正しい「型」を身につけなくては、向かうべき方向を間違えてしまいます。ここを疎かにしてはいけません。文章における「型」とは、正しい文章表現をすることに加えて、「心をこめて文章を紡ぐこと」も含まれると私は考えています。

夏目漱石のように

日本を代表する小説家の一人である夏目漱石。文豪の多くは人里離れた温泉地や旅館で筆を走らせたそうですが、夏目漱石にも思い出深い温泉地がありました。

それが名著『草枕』の舞台にもなった、熊本県玉名市の小天温泉です。漱石はその場所を「桃源郷」と呼びました。桃源郷と呼んだ理由は、露天風呂からの眺めからと言われていますが、真相は本人にしかわかりません。

ただ、桃源郷には俗界を離れた別世界や理想郷という意味があるように、夏目漱石の目には物語へと誘うような何か別の世界が見えて、草枕という文学が誕生したのは事実です。

どのような理由であれ、まずは書き出してみないことには始まりません。文章は書いたものを読む人がいて初めて完成します。そして「悪文」も読み手がいるから生まれるものです。最初から「悪文」を生み出そうと思い、執筆を始める人はいません。

夏目漱石のように、目の前の情景や感情を綴ることからはじめてみてはいかがでしょうか。

AUTHOR天野 勝規

株式会社まほろば 代表取締役

士業専門のホームページ制作会社「株式会社まほろば」の代表取締役。大阪教育大学 教育学部 卒業。総合小売業(東証プライム上場)、公益法人での勤務を経て29歳で起業。
独立開業時の集客・顧客開拓に関する相談から、年商数億円規模の事務所のマーケティング顧問まで幅広い対応実績。15年間で3,000事務所以上からご相談・お問合せ。
ホームページを活用しつつも、SEO対策だけに頼らない集客・顧客開拓の仕組みづくりを推奨している。
【保有資格】
社会保険労務士、年金アドバイザー2級

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