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多様な考え方が受け入れられる現代だからこそ、 韓非子の「法家の思想」を学ぶ必要がある

経営・マネジメント

組織サバイバルの教科書

韓非子

著者:守屋 淳
出版社:日経BPマーケティング
発売日:2016年8月1日

著者について

守屋淳(もりやあつし) 。作家、中国古典研究家。1965年、東京都生まれ。 早稲田大学第一文学部卒。大手書店勤務を経て、 現在は中国古典、主に『孫子』『論語』『老子』『荘子』 などの知恵を現代にどのように活かすかを テーマとした執筆や、企業での研修・講演を行う。主な著・訳書に『現代語訳 論語と算盤』(ちくま新書)、 『ビジネス教養としての「論語」入門』、『最高の戦略教科書 孫子』(ともに日本経済新聞出版社)、 『孫子・戦略・クラウゼヴィッツ』(日経ビジネス人文庫)など。

本の概要

戦国時代の思想家「韓非」。西のマキャベリ、東の韓非子という言葉があるように、『韓非子』全編を貫いているのは、人間の本性は「弱さ」であるという考え方だ。

中国古代の思想家として有名な人物として、多くの人は「孔子」を挙げる。だが、孔子が説いた『論語』の理想とするような組織は、時代が下がるにつれてその批判や改革への試みが徐々になされていった。その解決策として誕生したのが本書のテーマである『韓非子』なのだ。

韓非子の意図は「ムラ社会のような目的意識の強くないユルい組織を、成果の出せる引き締まった組織に変えたい」ということ。強敵が外部に多数ひしめく過酷な状況でも生き残れる、筋肉質な組織を『韓非子』は作ろうとした。

いま、企業は厳しい経営環境に置かれている。性善説を前提とした『論語』の考え方では、通用しない状況に立たされることもあるだろう。そんなとき、この『韓非子』の思想を学びなおすことで、組織の強化と生存戦略を見直すヒントが得られるかもしれない。

読んだ感想

『受け手が人間なので、人間がどう動くかを考えて制度を作らないといけない。モノであれば動くことはないが、人間の場合は他者の行動を読み合い、自分に最適な形になるように考えて行動するからだ』-小島武仁

経済学の一分野であるゲーム理論には「マーケットデザイン」と呼ばれる学問領域があります。東京大学マーケットデザインセンター(UTMD)センター長の小島武仁氏は、マーケットデザインを「世の中にさまざまある『資源』を望ましく配分するために、どう社会制度を設計(デザイン)すればいいかを考える学問」だと位置付けています。

かつてアダム・スミスが『国富論』「利己心の発揮は、見えざる手を通じて社会の利益を増大させる」と説いたように、古典経済学では個々人が自分の利益を求めるように行動すれば、市場は手を加えずとも自ずとその需給と価格の調整が行われるとされてきました。しかし、中古車市場における逆選択をはじめ、古典経済学の見えざる手では説明しきれない需給バランスの乱れ(市場の失敗)が生じるようになったのも事実です。そこで、こうした市場の失敗に着目し「人々にとって望ましい結果を得るにはどのような制度=ゲームのルールをデザインすればよいか」という工学的アプローチで、理論による制度設計を現実問題に実装しようとする試みがマーケットデザインです。

この「人々にとって望ましい結果を得るにはどのようなゲームのルールをデザインすればよいか」という考え方は、まさに韓非子が目指した組織統治のありかたに通ずる部分があると思います。たとえば、本書には、次のような韓非子の教えが記されています。

「もし悪事が必ず露見するなら、人々はそれに手を出さなくなる。必ず厳罰を与えるなら、悪事はやむ。 しかし、もし露見しないならば好き放題やるし、厳罰に処さなければ、それは実行されてしまう。」

韓非子の考え方は、孔子の「仁」を前提とした考え方とは対照的です。孔子は「他人を思いやる」という利他主義に基づき、戦乱の世を統治する方法を模索しました。対して韓非子は、あくまで人々は「利己的である」という前提のもとで、国や組織の利益が最大となる最適解を見つけ出そうとしました。そして本書『組織サバイバルの教科書 韓非子』では、孔子と韓非子の考え方の違いにも言及しながら、企業という組織を統治する術がわかりやすく解説されています。

本書では両者の違いを生み出した要因の一つには、孔子と韓非がそれぞれ生きた時代の間に200年ほどのずれがあることが指摘されています。孔子が生きたのは、春秋戦国時代中頃の群雄割拠の時代。伝統的な身分制度が崩壊し、下剋上が頻繁に行われていました。そんな中、孔子は「戦いをやめさせて平和な世の中をつくる」ことを目指し、『論語』にまとめられた儒家の思想を説いたといわれています。対して、韓非子が生きたのは、春秋戦国時代末期。この時代は、中国統一に向けて国同士が最後の生き残りをかけてせめぎあった時代です。二人の思想の違いは、その時代に求められていた組織や国のあり方が異なることによるものだと本書では説明しています。大切なことは「偉人たちの教えから学び、自分が生きている時代に合わせて最適な選択をする」ことなのかもしれません。

では、孔子の説いた「儒家の思想」と韓非子の説いた「法家の思想」では、どちらが現代にマッチした思想なのでしょうか。敢えて一つに決めるのであれば、私は韓非子の「法家の思想」の方が現代にマッチしているのではないかと考えます。

2020年、経済学者のポール・ミルグロムとロバート・ウィルソンが『周波数オークション』の研究でノーベル経済学賞を受賞しました。この研究は、1990年代半ばにおけるアメリカの周波数配分問題において、買い手の効用と売り手の利益双方を最大化させる、まさに市場の参加者がWIN-WINになる大成功を収めたとされています。そして周波数配分問題の解決がきっかけとなり、「マーケットデザインが実際の社会課題を解決した」と注目されました。マーケットデザインという学問分野が近年ますます注目されているのも、最適な制度設計で問題を解決するという「法家の思想」が現代社会と相性が良いからではないかと考えました。

グローバル化が進み、考え方の多様化が進んだ現代において、個々人の「仁」を前提に組織を運営する方法はますます難しくなってきています。その点、韓非子の「法家の思想」は、変化の激しいこの時代で組織を統治するために学ぶべき思想なのではないでしょうか。

印象に残った言葉【本書から引用】

うなぎは蛇に似ているし、蚕はいも虫にそっくりだ。人は蛇を見れば飛び上がって驚き、いも虫を見ればぞっとして毛を逆立たせる。それなのに、漁師はうなぎを素手でつかみ、女性は蚕を平気でつまみあげる。 利のあるところでは、みなとんでもない勇者となる。(P.21)
もし悪事が必ず露見するなら、人々はそれに手を出さなくなる。必ず厳罰を与えるなら、悪事はやむ。 しかし、もし露見しないならば好き放題やるし、厳罰に処さなければ、それは実行されてしまう。(P.118)
腹黒い臣下は、君主の心に取り入って、寵愛を勝ち取ろうとする。だから君主が気に入っている者であれば褒め称え、 君主が気に入らない者であればののしるのである。(P.136)
トップが警戒すべき六つの「微」がある。 一 権限を部下に貸し与えること 二 部下が外部の力を借りること 三 部下が似たことで騙そうとすること 四 部下が利害の対立につけ込むこと 五 内部に勢力争いが起こること 六 敵の謀略や干渉に乗せられること(P.159)
そう、制度も運用も「ひとまず人を信じる」という価値観では、いざというとき問題や禍根を摘み取れなくなってしまう。運用の方は「ひとまず人を信じる」でいくが、制度は「人は悪いことをしかねない」という形で設計しておいて、何かあれば性悪説で作った制度を呼び出して、問題や禍根を取り除いていくのだ。(P.227)

AUTHOR天野 勝規

株式会社まほろば 代表取締役

士業専門のホームページ制作会社「株式会社まほろば」の代表取締役。大阪教育大学 教育学部 卒業。総合小売業(東証プライム上場)、公益法人での勤務を経て29歳で起業。
独立開業時の集客・顧客開拓に関する相談から、年商数億円規模の事務所のマーケティング顧問まで幅広い対応実績。15年間で3,000事務所以上からご相談・お問合せ。
ホームページを活用しつつも、SEO対策だけに頼らない集客・顧客開拓の仕組みづくりを推奨している。
【保有資格】
社会保険労務士、年金アドバイザー2級

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