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「無消費層」のジョブを知ればイノベーションは”再現”できる

経営・マネジメント

ジョブ理論

イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム

著者:クレイトン・M・クリステンセン(著)、タディ・ホール(著)、カレン・ディロン(著)、デイビッド・S・ダンカン(著)、依田 光江(翻訳)
出版社:ハーパーコリンズ・ ジャパン
発売日:2017年8月1日

著者について

クレイトン・M・クリステンセン(Clayton M. Christensen)。1975年ブリガムヤング大学経済学部を首席で卒業後、77年英国オックスフォード大学で経済学修士、79年ハーバード大学ビジネススクールで経営学修士取得。卒業後、米国ボストン・コンサルティング・グループにて、主に製品製造戦略に関するコンサルティングを行いながら、ホワイトハウスフェローとして、エリザベス・ドール運輸長官を補佐。84年MITの教授らとともに、セラミック・プロセス・システムズ・コーポレーションを起業し、社長、会長を歴任。92年同社を退社し、ハーバード大学ビジネススクールの博士課程に入学し、わずか2年で卒業した(経営学博士号取得)。その博士論文は、最優秀学位論 文賞、ウィリアム・アバナシー賞、ニューコメン特別賞、マッキンゼー賞のすべてを受賞。コンサルティングファーム、イノサイトを創設。

本の概要

「どんなジョブを片付けたくて、あなたはそのプロダクトを雇用(ハイヤー)するのか」

かつて一世を風靡した企業が、いま活躍していない理由は何だろうか。イノベーティブな製品を生み出し不動の地位を確立したと思われた企業が、次のイノベーションを起こせずに業績不振に陥るのはなぜだろうか。果たしてイノベーションに"再現性"はあるのだろうか。

本書は、そうした「イノベーションの停滞」を背景に、イノベーションがどのように創出されるのかを明らかにする目的で提唱された「ジョブ理論」についてまとめた一冊である。ジョブ理論が目指すのは、顧客が成し遂げたい進歩(ジョブ)は何かを明らかにし、それを片付ける解決策を模索していくことにある。

イノベーション研究の第一人者で『イノベーションのジレンマ』の著者としても知られるクレイトン・クリステンセン氏が提唱するジョブ理論。この理論を学ぶことで、自社が提供しているサービスを改善する手がかりや、イノベーション創出のヒントが得られるだろう。

読んだ感想

『これまで誰も手掛けなかったサービスを提供していく事業には先生が必要である。』-江副浩正

1960年、日本の学生がまだ自由に就職先を選べなかった時代に、リクルートの前身である「大学新聞広告社」は産声をあげました。創業から現在に至るまで、リクルートがパイオニアとしてマーケットを拡大させていき、求人広告市場という巨大産業を創りあげたことは言うまでもありません。そして、冒頭に記した言葉の通り、リクルート創業者の江副氏は新事業を立ち上げる際には「先生」が必要だと考えていました。

ここでいう「先生」とは、新しい顧客と潜在顧客のことです。つまり、既存の顧客ではなく、新たに商品を買ってくれた顧客と商品を買っていない潜在顧客について深く理解するべきだと江副氏は考えていました。これは、まさにジョブ理論でクリステンセン氏が重要視している「無消費層を理解する」という観点と一致していると私は感じました。

クリステンセン氏は、本書で次のように述べています。

『ほとんどの企業は、既存の顧客への理解を深めようと大がかりな市場調査をおこなうが、ジョブについての重要な知見は、あなたのプロダクトも他社のプロダクトも買っていない無消費者を調査することで得られることが多い。』

江副氏は「就職先を選ぶ」という概念すらなかった時代に、学生たちが片付けたいジョブ(自分の希望にマッチした企業に就職したい)を見極め、大学生向けの就職情報誌『企業への招待』というプロダクトを雇用(ハイヤー)させました。同時に、企業が片付けたいジョブ(優秀な学生を採用させたい)をも見極め、求人広告という新たなプロダクトを雇用(ハイヤー)させました。これらの江副氏の偉業は、まさに「顧客にとって価値あるジョブを片付けた事例」といっても過言ではないと思います。

さらに興味深いのは、リクルートがイノベーションを"再現"しているという点です。不動産購入を検討している人の「住宅を客観的な基準で比較検討したい」というジョブを片付けた『住宅情報(現 SUUMO新築マンション)』や、「サロン予約をもっと手軽にしたい」というジョブを片付けた『Hot Pepper Beauty』など、リクルートは多くの分野でイノベーションを再現しています。そのどれもが、これまでサービスを購入していなかった「無消費層」から発想を得たものばかり。リクルートは、まさにジョブ理論を無意識的に体現している企業といえるのではないでしょうか。

クリステンセン氏は本書で『歴史上とくに大きな成功を収めたイノベーションは、個人の経験と内省から生まれた』と述べています。つまり、ジョブの知見を得るのに貴重な情報源となるのは、自身の生活の中だというのです。自社のサービスを消費していない「無顧客層」や、自分自身の生活の中で「どのようなジョブを片付けたいと考えているか」を意識する。その何気ない習慣の積み重ねが、やがて"イノベーションの源泉"として自分自身に根付くのだと思います。

印象に残った言葉【本書から引用】

どんな"ジョブ(用事、仕事)"を片づけたくて、あなたはそのプロダクトを"雇用"するのか?(P.15)
"ひとつですべてを満たす"万能の解決策は結果的に何ひとつ満たさないのだ。(P.34)
ジョブはつくり出すのではなく、見つけ出すものだ。ジョブそのものは長いあいだ変化しなくても、解決方法のほうは時が経つにつれて大幅に変化することがある。(P.64)
ほとんどの企業は、既存の顧客への理解を深めようと大がかりな市場調査をおこなうが、ジョブについての重要な知見は、あなたのプロダクトも他社のプロダクトも買っていない無消費者を調査することで得られることが多い。(P.130)
ところが、企業が成長するにつれ、起業のきっかけとなったジョブに対するフォーカスをなくしてしまうことが多い。強い意思と、1世紀にわたるマーケティングの知恵があるにもかかわらず、企業は、解決するジョブ(4分の1インチの穴)ではなく、売り出すプロダクト/サービス(4分の1インチのドリル)が自分たちの仕事を定義するかのように行動しはじめる。(P.257)
成功する組織はどれも、意識的にしろ無意識にしろ、顧客にとって価値のあるジョブを片づけることによって最初の成功を達成する。(P.287)

AUTHOR天野 勝規

株式会社まほろば 代表取締役

士業専門のホームページ制作会社「株式会社まほろば」の代表取締役。大阪教育大学 教育学部 卒業。総合小売業(東証プライム上場)、公益法人での勤務を経て29歳で起業。
独立開業時の集客・顧客開拓に関する相談から、年商数億円規模の事務所のマーケティング顧問まで幅広い対応実績。15年間で3,000事務所以上からご相談・お問合せ。
ホームページを活用しつつも、SEO対策だけに頼らない集客・顧客開拓の仕組みづくりを推奨している。
【保有資格】
社会保険労務士、年金アドバイザー2級

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