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リベラルアーツを学び「真・善・美」を判断するため“美意識”を磨く

経営・マネジメント

世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?

経営における「アート」と「サイエンス」

著者:山口 周
出版社:光文社
発売日:2017年7月19日

著者について

山口周(やまぐち しゅう) 。1970年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科卒業、同大学院文学研究科美学美術史学専攻修士課程修了。電通、ボストン・コンサルティング・グループ等を経て、組織開発・人材育成を専門とするコーン・フェリー・ヘイグループに参画。現在、同社のシニア・クライアント・パートナー。専門はイノベーション、組織開発、人材/リーダーシップ育成。著書に『グーグルに勝つ広告モデル』(岡本一郎名義)『天職は寝て待て』『外資系コンサルの知的生産術』(以上、光文社新書)など。

本の概要

利益率ならROE、投資の効率性であればROI、安全性なら流動比率…。いま、ビジネスの世界では「理性」に基づいた経営が強く求められている。投資家や顧客などのステークホルダーは、経営者に「サイエンス重視の意思決定」を求め、アカウンタビリティ(説明責任)の確保を重視する。しかし、著者の山口周氏は「理性にだけ軸足をおいた経営」では、今日のように複雑で不安定な世界においてビジネスの舵取りをすることはできないと警鐘を鳴らしている。

実際、経営指標を徹底管理し、数値面では「優等生」と持てはやされた企業で多くの不祥事が起こっている。つまり「理性」だけの経営では、複雑化・不安定化したビジネス社会で生き残れない。クオリティの高い意思決定を継続的にするには、内在的に「真・善・美」を判断するための「美意識」が求められることになるというのが本書の主張だ。

いま、経営の最前線で戦う世界のエリートが、なぜ「美意識」を鍛える必要があるのか。企業の経営に関わる全ての方にご一読いただきたい一冊だ。

読んだ感想

『金儲けを品の悪いことのように考えるのは根本的に間違っている。しかし儲けることに熱中しすぎると、品が悪くなるのも確かである。金儲けにも品位を忘れぬようにしたい。』-渋沢栄一

これは「近代日本経済の父」と称される渋沢栄一氏が、著書『論語と算盤』の中で残した言葉です。ご存じの通り、急速に近代化が進んだ明治時代に渋沢氏が目指したのは「道義を伴う利益の追求」でした。お金儲けをしなければ、日本は他国に遅れをとってしまう。しかし、算盤を弾いて利益を追求するだけでは、品位が損われてしまう。そこで渋沢氏は「論語」と「算盤」という相反するものを一つにすることを重視し、金儲けにも品位を忘れぬようにしたいと説いたのでした。渋沢氏が大切にした「品位」とは、まさに本書で語られている「美意識」に他ならないと私は考えます。

渋沢氏が生きた明治時代と現代は、ビジネスを取り巻く環境にいくつもの共通点があります。西洋文明が日本に入ってきた明治時代、文明開化とともに人々の生活や習慣が急速に変化しました。西洋諸国に倣い法整備も進められましたが、すべての法律が実態に即していたわけではありません。環境が目まぐるしく変化する社会において、法律(システム)の整備が追いついていないという状況は、現代と同じです。渋沢氏も山口氏も、そのような「不完全なシステム」の中で実法定主義的に最適化するのは「危険」だと警鐘を鳴らしているのです。

近年では上場企業をはじめ、多くの大企業が財務諸表のほかに統合報告書を公表しています。統合報告書とは、財務諸表に載っている財務情報と、財務諸表に載っている数値だけでは説明しきれない非財務情報(ESG、経営戦略など)を統合し、包括的に企業活動を説明するための資料です。もはや資本市場においても「経営指標の数値がいい」というだけで評価される時代は過ぎました。経営指標の数値だけではなく、数値化しにくいESG情報までを考慮しながら、いわば「理性」と「感性」の両輪で企業経営が評価される時代へとシフトしています。このような時代に、世界のエリートたちが哲学や美術といったリベラルアーツを学び、自身の「美意識」を高めようとするのは必然ではないかと思います。

もちろん、統合報告書やESGも完全なシステムではありません。たとえば、ESG投資を行う投資家は、評価機関によるESGスコアを参考にします。すると企業側は「ESGスコア」を高くするために、かたちだけ女性役員比率を上げたり、環境によい活動をしているように見せかけたり(グリーンウォッシュ)します。実際、欧州委員会による2020年の調査では、世界の企業サイトに対して横断的にスクリーニングを行ったところ、企業サイトの42%において「自社の取り組みはグリーンである」との主張が誇張されすぎている、虚偽である、または欺瞞的であると発表されています。皮肉なことに、美意識や品位を保つためにつくられた指標が、結局のところ金儲けに利用されてしまっているわけです。これこそ、「品位を忘れた実法定主義的な経営」と言わざるを得ないでしょう。

究極的に『論語と算盤』を重視した経営をするためには、根本となる美意識を磨くしか方法がないと思います。見た目だけ取り繕っても、感性は磨かれません。リベラルアーツを学び、教養を身につける。そして「生産性」「効率性」という外部のモノサシだけではなく、「真・善・美」を内在的に判断するためのモノサシ(美意識)の精度を、もっと高めていく必要があると感じました。

印象に残った言葉【本書から引用】

クオリティの高い意思決定を継続的にするためには、明文化されたルールや法律だけを拠り所にするのではなく、内在的に「真・善・美」を判断するための「美意識」が求められることになります。(P.16)
It is wrong to suppose that if you can’t measure it, you can’t manage it – a costly myth.測定できないものは管理できない、と考えるのは誤りである。これは代償の大きい誤解だ。(P.20)
アカウンタビリティという「責任のシステム」が、かえって意思決定者の責任放棄の方便になってしまっているわけです。(P.53)
アーレントは、アイヒマンが、ユダヤ民族に対する憤怒の憎悪や欧州大陸に対する激烈な攻撃心といったものではなく、ただ純粋にナチス党で出世するために、与えられた任務を一生懸命にこなそうとして、この恐るべき犯罪を犯すに至った経緯を傍聴し、最終的にこのようにまとめています。曰く「悪とは、システムを無批判に受け入れることである」と。(P.161)
ここにエリートのジレンマがあります。というのも、エリートというのは、自分が所属しているシステムに最適化することで多くの便益を受け取っているわけですから、システムを改変することのインセンティブがないわけです。(P.211)

AUTHOR天野 勝規

株式会社まほろば 代表取締役

士業専門のホームページ制作会社「株式会社まほろば」の代表取締役。大阪教育大学 教育学部 卒業。総合小売業(東証プライム上場)、公益法人での勤務を経て29歳で起業。
独立開業時の集客・顧客開拓に関する相談から、年商数億円規模の事務所のマーケティング顧問まで幅広い対応実績。15年間で3,000事務所以上からご相談・お問合せ。
ホームページを活用しつつも、SEO対策だけに頼らない集客・顧客開拓の仕組みづくりを推奨している。
【保有資格】
社会保険労務士、年金アドバイザー2級

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