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不変の信念を貫き通すことで、“運”を味方につける

経営・マネジメント

ドン・キホーテ創業者「最強の遺言」

著者:安田 隆夫
出版社:文藝春秋
発売日:2024年6月20日

著者について

安田隆夫(やすだ たかお) 。1949年岐阜県大垣市生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、不動産会社に就職するも入社10カ月後に倒産。78年、東京・杉並区にわずか18坪のディスカウントショップ「泥棒市場」を出店。深夜営業でヒットし成功を収めるが、5年で売却し、卸問屋「リーダー」を設立。これも大きな利益を上げるが、小売業への再参入を決意し、89年に「ドン・キホーテ」1号店を東京・府中に出店。幾多の失敗や苦難を乗り越えながら急成長を続け、創業以来34期連続増収増益という驚異的な偉業を達成。現在はPPIHグループ(旧ドンキホーテHD)創業会長兼最高顧問。

本の概要

2024年、総合ディスカウントストア「ドン・キホーテ」を展開するPPIHグループは35期連続の増収増益を達成した。国内上場企業の中で35期連続増収増益の記録を達成したのは、ニトリホールディングスとPPIHグループの2社のみである。創業者の安田隆夫氏は、この時価総額2.5兆円、小売業界4位の超高収益企業をなぜ一代で築き上げることができたのか。安田氏は、その成功要因として「運」の存在を挙げている。

ここで言う「運」は、単なる「ツキがよかった」という話の類ではない。安田氏は『災難を招いた「不運」を、「幸運」に変える力が強い』からこそ、途轍もなく大きい成功を収めることができたと語る。

そして本書は、安田氏が人生とビジネスで学んだ「運」についてのすべてを一冊にまとめた本である。安田氏は本書『運』をいわば“遺言”のようなものだと語る。本書を通じて、安田氏が考える「運」を良くする手がかりを掴んでいただければ幸いである。

読んだ感想

『運は決して「宿命」ではない。気持ちの持ち方次第で、いくらでもコントロール可能なものだ。』-安田隆夫

本書の中でドン・キホーテ創業者 安田氏の“運”に対する向き合い方を最も端的に言い表したのが、この言葉だと思います。本書によれば、運とはその人が成し得た人生の結果そのもの。つまり「運が良かった」というのは、ただ単に「ラッキーだった」「楽をしながらいい思いをした」ということでは決してありません。困難に打ちひしがれることなく、努力と行動をし続けた結果、人生が結果的により良い方向に向かった。そのことを安田氏は「運が良かった」と表現しています。

裏を返せば、自分の行動や気の持ち方次第で、良い運を引き寄せ、人生やビジネスを好転させることができます。運に自分の身を任せるのではない。自分が“運”をコントロールするのだ。そんな安田氏の考えに触れ、私は身が引き締まる想いがしました。

ビジネスには「こうすれば絶対うまくいく」という唯一無二の法則はありません。なぜなら、ビジネスは市場環境や人の心理、法律をはじめ、何千何万もの要素が相互に影響しあう高度な複雑系だからです。この複雑系をマネジメントするためには、生態系のカオスで生きる動物の“本能”のように、言語で説明可能な領域を超えた「心の動き」が必要です。安田氏はこの「心の動き」のこと、つまり自分にとっての追い風となるチャンス、向かい風となるピンチを見極める能力のことを「運の感受性」と呼びました。そして、運の感受性を磨き続けたからこそ、35期連続増収増益という偉業を達成できたのではないでしょうか。

本書を読み、改めてPPIHグループのIR資料を読み返してみました。すると、直近数年のアニュアルレポートの冒頭には、必ずPPIHグループの不変の行動指針である「源流」、起業原理である「顧客最優先主義」、そして経営理念が事細かに記されていることに気づきました。「会社は株主のもの」という言葉があるように、上場企業ともなるとステークホルダーとして株主を優先するべきという一般論があります。しかしPPIHグループは、どれだけ時代が移り変わろうとも、どれだけ企業規模が大きくなろうとも、「顧客」が最優先であるという信念を貫いてきました。

外部の圧力に負けることなく、信念を貫き通すのは簡単なことではありません。PPIHグループが成長を続けられているのは、行動指針・起業原理・経営理念を徹底的に遵守し、時代を超えて顧客に対して誠実に向き合ってきた結果ではないでしょうか。本書の言葉に照らし合わせていえば、この確固たる姿勢こそが「集団運」を生み出し、PPIHグループを「自燃・自走する組織」へと進化させてきたのではないかと私は考えます。

2024年8月、PPIHグループが安田会長の22歳の息子を取締役として選任したことが報じられました。一代で時価総額2.5兆円もの巨大企業を創り上げた安田会長が、本格的に引退の準備を始めたとの報道もあります。ドン・キホーテおよびPPIHグループに未来のバトンが受け継がれていく中で、その「運をコントロールする」という哲学がどのように形を変えながらも息づき続けるのか、非常に興味深く感じます。

本書を通じて学んだ「運」の本質は、私自身の人生や仕事への向き合い方を見つめ直す貴重なきっかけとなりました。私もまた、困難に立ち向かい続ける先にある「運」を信じ、自分の道を切り開いていきたいと思います。

印象に残った言葉【本書から引用】

私が考える運とは、その人が成し得た人生の結果そのものである。つまり、「運が良かった」というのは、その人が困難にもがきながらも、努力し行動した結果、人生が結果的により良い方向に向かったということなのだと、ごくシンプルに捉えている。(P.17)
未来に希望を持つ「楽観論者」のほうが運に恵まれるということだ。逆に、悲観論者には運はやって来ない。楽観論者のほうが悲観論者よりも圧倒的に勝率が高く、それが成功へと至る近道となる。(P.36)
また、迷信や縁起についても気にしない。そうしたものに必要以上にこだわって右往左往するのは、逆に運を下げる要因になるのではないか。科学的な裏付けがないものを断ち切る強さがいい運を呼ぶ、というのが私の体験的持論である。(P.98)
あまり認識されていないが、「経営者の一歩より社員の半歩」の方が、会社にとってはるかに重要である。経営者が孤軍奮闘するよりも、社員一人一人が熱意をもって仕事に取り組んだほうが、会社は何倍も大きく前進する。これが分からないうちは、経営者にはなるべきではない。(P.157)
「運」とは何か。結局、それは私自身の〝生き様〟そのものではなかったか。(P.199)

AUTHOR天野 勝規

株式会社まほろば 代表取締役

士業専門のホームページ制作会社「株式会社まほろば」の代表取締役。大阪教育大学 教育学部 卒業。総合小売業(東証プライム上場)、公益法人での勤務を経て29歳で起業。
独立開業時の集客・顧客開拓に関する相談から、年商数億円規模の事務所のマーケティング顧問まで幅広い対応実績。15年間で3,000事務所以上からご相談・お問合せ。
ホームページを活用しつつも、SEO対策だけに頼らない集客・顧客開拓の仕組みづくりを推奨している。
【保有資格】
社会保険労務士、年金アドバイザー2級

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