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次の成長をつかむ「押し引き」の判断と実践

2026.05.04経営・マネジメント

勝負眼

「押し引き」を見極める思考と技術

著者:藤田晋
出版社:文藝春秋
発売日:2025年11月19日

著者について

藤田晋(ふじたすすむ)。1973年福井県生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、1997年にインテリジェンス(現パーソルキャリア)へ入社し、1998年にサイバーエージェントを設立、代表取締役社長に就任した。2015年からはAbemaTV代表取締役も務め、インターネット広告、メディア、ゲーム事業の拡大を主導。2025年12月からはサイバーエージェント代表取締役会長・代表執行役員会長を務めている。

本の概要

サイバーエージェントを創業し、28期連続増収を成し遂げながら、ABEMA、インターネット広告、ゲーム事業などを柱に売上高8,000億円超の企業へと成長させた藤田晋氏。本書は、長年経営の第一線を走り続けてきた同氏が、社長退任を機に自らの経営哲学と勝負勘をまとめ上げた一冊だ。

藤田氏が一貫して説くのは、攻めるべき時に攻め、引くべき時に引く「押し引き」の判断力。組織づくりや新規事業への投資、企画立案、そして最も難しいとされる撤退判断まで、経営の重要局面においてその見極めは不可欠である。大胆さだけでなく、引くべき時に引く冷静な決断力こそが、長期にわたって勝ち続けるための要諦であることを本書は示している。

本書は「週刊文春」で連載された「リーチ・ツモ・ドラ1」をもとに、加筆修正を加えて構成されている。Z世代との向き合い方や尖った企画の生み出し方、リーダーとしてのあり方など、現代の経営者が現場で直面する切実なテーマが網羅されており、藤田氏の率直な思考プロセスを辿ることが可能だ。

華やかな成功談にとどまらず、迷いや守り、撤退の決断までが等身大で描かれている点は本書の大きな特徴といえる。日々難しい意思決定を迫られるビジネスパーソンにとって、自らの「押し引き」を見つめ直し、次の一歩を踏み出すための実践的な指針となるはずである。

読んだ感想

『創業者が大きくした会社の社長交代だけは、通常の大企業の社長交代とは全く違う、特別なものです。調べてみると、功績を成した創業者の多くが驚くほどここで大きく躓いていますが、私は絶対にやり切る覚悟です。』-藤田晋

2025年11月14日、サイバーエージェントの藤田晋氏は、業績好調なタイミングで社長交代を発表しました。売上高8740億円、営業利益717億円という数字は、創業者がそのまま舵を取り続ける正当な理由にもなり得ます。しかし、藤田氏はあえてそのタイミングで、次世代へバトンを託す決断を下しました。

藤田氏はかねてより、経営の勝敗の9割は「押し引き」で決まると説いています。そして、勝負に強い人とは、ただ大胆な人ではなく、勝率を冷静に見極めたうえで「いま持っているものを潔く手放せる人」であると語ります。

本書の中で藤田氏は、多くの経営者が「8割は勝てそう」と思えるチャンスを前にして、結局は動けない現状を指摘しています。高い確率で大きく勝てる可能性があるにもかかわらず、失うことや批判を恐れていま持っているものにしがみついてしまう。そうして迷っている間に、チャンスはあっという間に去ってしまうのだ、と。

これは、社長交代という事業承継の場面に限った話ではありません。新しい成長の種を見つけたとき、あるいはビジネスモデルの転換期において、多くの経営者が「今の延長線上の利益」を捨てることを恐れます。しかし、藤田氏の論理を借りれば、その執着こそがさらなる成長を阻む最大の壁となるのです。

藤田氏にとって、27年9カ月にわたりアイデンティティそのものだった「サイバーエージェント社長」という肩書きを手放すことは、まさに自身の哲学を体現する「捨て去る決断」でした。それは「退く」というネガティブな選択ではなく、次の成長ステージに賭ける「攻めの経営戦略」に他なりません。

帝国データバンクの調査(2025年)によれば、全国企業の50.1%が後継者不在という課題を抱えています。もちろん、事業承継のタイミングや方法は企業ごとに異なり、万人に当てはまる正解はありません。しかし、業績が良いからこそ、あるいは次に進みたいからこそ、いまのポジションを明け渡すという選択肢は、経営者が一度は向き合うべき「押し引き」の問いといえるでしょう。

「いま持っているもの」を捨てる勇気こそが、新しい可能性を呼び込むきっかけになる。
藤田氏の決断は、事業の未来を真剣に考えるすべての経営者に、自身の経営スタイルを問い直す重要なヒントを投げかけているのではないでしょうか。

印象に残った言葉【本書から引用】

仕事も人生も運に左右されるが、最終的には努力を怠らなかった人が生き残っていく。経営者も短期的に運が良いだけでうまくいく人もいるけれど、調子に乗って本物の実力をつける努力を怠れば長くは続かない。その理由は運で勝っているにもかかわらず、それが自分の実力だと勘違いしてしまうから。勝てなくなってきた時に「本来の自分じゃない」と現実を受け入れられず、ズルズルと負けが込んでいってしまうのだ。(P.16)
誰もが「8割は勝てそう」と思えるような期待値の高いチャンスがあっても、いま持っているものを捨てる決断ができない経営者は結構多い。高い確率で大きく勝てる可能性があるのに、失うことや批判されることを恐れて慎重になってしまい、レアケースの負けのリスクのほうに目がいってしまうのだ。即断即決できず迷っていると、チャンスはあっという間に去っていってしまう。(P.18)
サイバーエージェントは新規事業をバンバン立ち上げてきた会社である。でも私としては、「事業を新しく始めることよりも撤退を決めるほうが大事だ」「撤退基準があるから新規事業が始められる」ということを、口癖のように言ってきたし、社内の制度にも盛り込んできた。(P.26)
「小さなことにくよくよしろよ」。これは、小さな約束を守らない人に、大きな仕事は怖くて任せられないという意味だ。私もこの本を書いてから、なおさら小さな口約束をメモしてTODOリストに入れ、必ず実践するようにしている。これは、信頼を積み重ねる上で本当に大事なことだと感じている。 (P.97)
小難しく考えずにシンプルで正しいビジョンを掲げ、細部の諸事情に決して揺らぐことなく、最後までやり切ること。会社経営でも政治の世界でも、リーダーの仕事で大事なことは、そういうことなんじゃないかなと思う。(P.229)

AUTHOR天野 勝規

株式会社まほろば 代表取締役

士業専門のホームページ制作会社「株式会社まほろば」の代表取締役。大阪教育大学 教育学部 卒業。総合小売業(東証プライム上場)、公益法人での勤務を経て29歳で起業。
独立開業時の集客・顧客開拓に関する相談から、年商数億円規模の事務所のマーケティング顧問まで幅広い対応実績。15年間で3,000事務所以上からご相談・お問合せ。
ホームページを活用しつつも、SEO対策だけに頼らない集客・顧客開拓の仕組みづくりを推奨している。
【保有資格】
社会保険労務士、年金アドバイザー2級

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