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白洲次郎の生涯をかけたメッセージ

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白洲次郎

プリンシプルのない日本

著者:白洲 次郎
出版社:新潮社
発売日:2006年5月30日

著者について

白洲次郎(しらすじろう)。1902(明治35)年、兵庫県芦屋の実業家の次男として生まれる。神戸一中卒業後、イギリス・ケンブリッジ大学に留学。帰国後は英字新聞記者を経て商社に勤務するが、1943(昭和18)年、日本の敗戦を見越して鶴川村(現・東京都町田市)で百姓となる。1945年、吉田茂に請われて終戦連絡中央事務局参与となり、日本国憲法成立などに関与。その後、貿易庁長官に就任、通商産業省を誕生させる。以後、東北電力会長などを務め、1985年逝去。妻は白洲正子。(「BOOK著者紹介情報」より)

本の概要

白洲次郎は、終戦後アメリカの占領下にあった日本を立て直すため、大いに尽力した人物である。その功績は日本国憲法の作成や講和条約の締結など多岐に渡る。歴史にifがないというのは無論のことだが、やはり戦後の日本がこれほどまで早く復興できたのも、日本の地位を諸先進国と同等まで押し上げられたのも、やはりこの男の功績なしには実現されなかったことではなかろうか。

次郎は「占領を背負った男」とも呼ばれ、戦後史の重要な場面の数々に立ち会ったものの、纏まった文章を遺すことはなかった。特に占領中は沈黙を貫き続けた彼であったが、日本が占領から解放された直後のこと、彼は堰を切ったように文章を綴り始めたのである。1951年、サンフランシスコ講和条約が結ばれた直後のことであった。

本書は、そんな白洲次郎が散発的に発表した文章を一冊にまとめた、唯一の直言集である。本書に込められたメッセージは、現代日本の源流ともいえる戦後日本の問題点を浮き彫りにする。

読んだ感想

『我々は戦争に負けたが、奴隷になったわけではない。』
(Although we were defeated in war, we didn’t become slaves.)

この言葉には、第二次世界大戦で敗北した日本を建て直したいという、白洲次郎の強い信念が込められています。GHQの要人から「従順ならざる唯一の日本人」と称されるほど権威に一切屈することなく、83年の生涯に幕を下ろすまで一貫して自分の「プリンシプル」を貫き通した白洲次郎の生き様は、私たち現代人が忘れてしまった大切なことを訴えかけているように感じます。私の地元でもあるこの芦屋の地に、彼のような英姿颯爽とした日本人が生きていたと考えるだけで、大変誇らしい気持ちになります。

さて、本書のタイトルにもある「プリンシプル(Principle)」という言葉。まるで「侘び寂び」という言葉を英語で伝えるためには”wabi-sabi”という言葉を使うしか方法がないように、Principleという英語に100%対応するような日本語は存在せず、本書でも一貫して「プリンシプル」という言葉が用いられています。「プリンシプルがある」とは「筋を通す」という意味とも似ているようにも感じますが、次郎は「筋を通したからといってやんや喝采しているのは馬鹿げているとしか考えられない」と一蹴しています。
そして次郎は、この「プリンシプル」に関して、次のような言葉も遺しています。

『プリンシプルは何と訳してよいか知らない。「原則」とでもいうのか。日本も、ますます国際社会の一員となり、我々もますます外国人との接触が多くなる。西洋人とつき合うには、すべての言動にプリンシプルがはっきりしていることは絶対に必要である。』

つまり次郎は、戦後の日本には「プリンシプル」が絶対に必要であり、「プリンシプル」がなければ西洋人と対等に対話することもできないと言っているのです。ここに私は、現代の日本が抱える問題の一端を垣間見た気がしました。

バブル崩壊から約30年、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われた時代はもはや幻想の如く、日本は国際的な地位を下げ続けています。OECDの調査によると、2020年の日本の時間あたりの労働生産性はOECD加盟38か国中23位と、1970年以降最も低い順位となっています。日本の1人あたり労働制に関しては、OECD38国中28位で、ポーランドやエストニアといった東欧・バルト諸国と同水準となっており、もはや先進国として国際社会で戦うのは難しくなってきています。もちろん日本は人口が多いため、国全体のGDPで見るとアメリカ、中国に次いで世界3位の経済大国となっていますが、これからの人口が急激に減少する局面において、いつまでも同じ地位を保つことは不可能に近いことです。

日本人1人ひとりを見れば、真面目で優秀な人ばかりなのに、どうしてこれほどまでに労働生産性が低いのか。その理由の1つが、欧米の先進国の企業には「プリンシプル」があり、日本にはそれがないからだと私は考えます。例えばアメリカのアウトドア用品メーカーのパタゴニアは、「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む(We're in business to save our home planet)」をMission Statement として掲げ、このミッションに基づいて全ての企業活動を行なっています。2022年9月14日には、創業者のイボン・シュイナード氏が事業利益を気候危機対策に充てるために保有する全株式を非営利の環境保護団体に譲渡し話題になりました。正直「ここまでするか」という気持ちはありますが、彼らからしたらそれは「自らのプリンシプルに従っている」だけであり、当然のことなのかもしれません。そしてそこで働く社員たちも、そのプリンシプルに向かって働くため、労働生産性も高いのではないかと考えました。

一方で日本の企業は高性能の製品の開発や一流のおもてなし、唯一無二の職人技など、技術力や社会に役立つものを生み出すことは得意ですが「ミッション」、「ビジョン」を企業活動に結びつける想いは相対的に弱いと思います。そうして一貫性がなく、筋の通っていない商売をしているために社員の気持ちも1つにまとまらず、優柔不断な経営になってしまう。経営に限らず、このような日本人の気質に次郎は「プリンシプルがない」として危機感を覚えたのではないでしょうか。そしてインターネットが発達してますますグローバル化が進んでいる今の時代、プリンシプルのない日本は国際社会に一人負けしてしまったのだと感じます。

では、私たちはどうすればいいのか。
次郎は、このような言葉も遺しています。

『今の日本の若い人に、一番足りないのは勇気だ。「そういう事を言ったら損する」って事ばかり考えている。』

プリンシプルを強く持てば、そのぶん意見が合わない人に嫌われます。しかし、嫌われる勇気を持って、いや、むしろ嫌われるように積極的に努力しなければ良い仕事などできるはずがありません。そして白洲次郎の唯一の直言集である本書は、私たち現代人が歩むべき道の示唆を与えてくれます。白洲次郎の生涯をかけたメッセージが、一人でも多くの人に届くことを願うばかりです。

印象に残った言葉【本書から引用】

井戸の中の蛙は大海を知らないという諺があったようだが、大事なことは、この蛙が大海を知る可能性がないにしても、井戸の中にいる自分を、井戸の外から眺められることさえ出来れば、用はいくらか足りるような気がする。(p.92)
吾々の時代にこの馬鹿な戦争をして、元も子もなくした責任をもっと痛烈に感じようではないか。(p.108)
何でもかんでも一つのことを固執しろというのではない。妥協もいいだろうし、また必要なことも往々ある。しかしプリンシプルのない妥協は妥協でなくて、一時しのぎのごまかしに過ぎないのだと考える。(p.219)
外資がはいってきたら、こうなる、ああなるとビクビクせずにもっと自信をもったらどうか。自分の技術に、自分の経営にそんなに自信がないのなら、そんな連中は交代したらいい。交代しても技術も経営も向上の見込みがないのなら、そんなに国民の犠牲をおいて金もうけばかり考えるのは不とどきである。(p.229)
日本へ帰りたい、子供の顔が見たい、それだけで生きてきたんだもの。強いんだよ、決心ていうものは。(p.269〜p.270)

AUTHOR天野 勝規

株式会社まほろば 代表取締役

士業専門のホームページ制作会社「株式会社まほろば」の代表取締役。大阪教育大学 教育学部 卒業。総合小売業(東証プライム上場)、公益法人での勤務を経て29歳で起業。
独立開業時の集客・顧客開拓に関する相談から、年商数億円規模の事務所のマーケティング顧問まで幅広い対応実績。15年間で3,000事務所以上からご相談・お問合せ。
ホームページを活用しつつも、SEO対策だけに頼らない集客・顧客開拓の仕組みづくりを推奨している。
【保有資格】
社会保険労務士、年金アドバイザー2級

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