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人間心理の脆弱性を認め、「不健全な対立」を乗り越える

自己啓発

High Conflict

よい対立 悪い対立

世界を二極化させないため

著者:アマンダ・リプリー
出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン
発売日:2024年6月21日

著者について

アマンダ・リプリー(Amanda Ripley)。ベストセラー作家、ジャーナリスト。The Atlantic誌やThe Washington Post紙などに人間の行動や変化について寄稿しているほか、Time誌在籍中、同誌の2度にわたる全米雑誌賞(National Magazine Awards)受賞に貢献。また、自身の仕事について語るため、ABC、NBC、Foxニュース、CNN、NPRにも出演している。著書にベストセラーとなった『世界教育戦争』(中央公論新社)、『生き残る判断 生き残れない行動』(ちくま文庫)がある。本書の登場人物のように多くのアイデンティティを持つ。熟練した紛争調停者にして、可もなく不可もないサッカー選手、さらには母親、妻であり、ワシントンD.C.の住人。

本の概要

対立には「健全な対立」と「不健全な対立」がある。健全な対立は、わたしたちがよりよい人間となれるよう背中を押してくれる。対して、「善と悪」「わたしたちと彼ら」といった、相反する関係が明確になったときに起こるのが不健全な対立(High Conflict)だ。

そして本書が最終的に目指すのは「不健全な対立をよりよく理解する」ことだ。そうすれば、対立が起こるときにそれを認識できるし、望むなら、そこから自分や他者が抜け出すのを助けることもできる。そして、同意できないことを理解できるようになる。対立は、人を消耗させるものから、自分に必要なものへと変わっていくのだ。

現代社会で成功するには、不健全な対立がいかにして起こるかを理解しなければならない。不健全な対立から一歩引いて、その輪郭を知り、畏れを感じなければならない。そうすれば、それがどれほどわたしたちの視野を歪めているかがわかる。そして、別の生き方を思い描くことができるようになるだろう。

読んだ感想

“I didn't build the bomb, I only showed the world that it exists.”-Michal Kosinski
(『私が爆弾を作ったのではない。私は爆弾が存在することを示しただけだ』-ミハル・コシンスキ)

2008年頃、ケンブリッジ大学の心理学者ミハル・コシンスキ氏が、フェイスブック(FB)のアプリを用いてユーザーにアンケートを行いました。アンケートの内容は、SNSの何の投稿に“いいね”をしたか、そして何をFB上でシェアしたかなど。コスンシキ氏はこれらのデータと回答をサイコメトリクス(計量心理学)の手法で分析を行いました。その結果、コスンシキ氏はこれらの情報からユーザーの心理特性や行動特性が高い精度で推定できることを発見。さらにモデルを改良することにより、人のFBの“いいね”10個だけに基づいて、その人の人となりを、その人の平均的な同僚よりも正確に言い当てることができるようになりました。

この研究結果を選挙に利用したのが、イギリスのデータ分析・コンサルティング会社であるケンブリッジ・アナリティカ社でした。2016年10月、トランプとクリントンの第3回大統領候補討論会の日に、ケンブリッジ・アナリティカ社は17万5000通りのターゲティング広告を用意して、潜在的にクリントンに投票しそうな人々が投票所に足を運ばないよう仕向けたと言われています。CA社が特に注力したのは、投票先をどちらにしようか迷っている「浮動票」です。さらに、米国の全人口を32のパーソナリティの型に分類し、17の州にのみ注力するなどのキャンペーンを行いました。このキャンペーンの結果、トランプの好感度は平均3%上昇し、トランプに投票する意思がある有権者が8.3%上昇したといいます。

これは「ケンブリッジ・アナリティカ事件」と呼ばれ、SNSの履歴という「個人情報」を悪用した世界最大のプライバシー侵害事件としてメディアで大きく取り沙汰されました。同時に、SNSとビッグデータによって、いとも簡単に「大衆心理が誘導される」という人間心理の脆弱性が露呈した事件でもあります。冒頭のコシンスキ氏の言葉は、この「人間心理の脆弱性」を「爆弾」にたとえ、誰もがその爆弾を抱えながら生きていることを示した言葉となっています。

この一連の事件からわかることは、私たちの意思やイデオロギーは、私たちが思っているよりも簡単に第三者に誘導されうるということです。フィルターバブルという言葉がありますが、今のインターネットやSNSは個々のユーザーにとって「見たい情報」が優先的に表示されるようにプログラムされています。自分の信念や考えを補強する材料は簡単に集まる一方で、自分と異なる意見は隔離されていきます。それがエコーチェンバー現象として「見たい情報」が「正しい(と思い込む)情報」へと変化していき、それ以外の意見が受け入れられなくなっています。インターネットがパーソナライズされた現代は、もしかしたら、かつてないほど「不健全な対立(High Conflict)」が起こりやすい状況に陥っているのかもしれません。しかしケンブリッジ・アナリティカ事件でも示されたように「誰もが対立の反対側の立場に立ちうる(そしてそれは広告のような、いとも簡単なきっかけで誘導されうる)」という人間心理の脆弱性を忘れてはならないと思います。

一人ひとりの考え方が違う以上、時には対立が避けられないこともあるでしょう。自分は正しいことを言っていて、相手は明らかに間違っている。そう思う場面も、もちろんあります。しかし本書でも指摘されている通り、大切なことは相手の言い分に耳を貸すことです。もしかしたら、一見対立した意見に見えても、実は少しのボタンの掛け違いで白と黒に見えているだけかもしれません。自分の信念を曲げずとも、同意できないことを理解できるようになると、対立は人を消耗させるものから自分に必要なものへと変わっていきます。

残念ながら不健全な対立には、人を惹きつける魔力があります。だからこそ、(悪気はなくとも)企業は広告で不安や対立を煽り、商品の購入を促してくることもあるでしょう。そこで無意識のうちに植え付けられた価値観が、別の人の価値観と対立してしまうこともあるかもしれません。それでも私たちは、無意識に生まれた対立や偏った思考をそのまま受け入れるのではなく、自分と異なる考えや背景を“知ろう”とする態度を保ち続けることができます。自分が真っ向から反対する意見に出会ったとき、たとえ納得できなくても「こういう見方もあるのか」と踏みとどまる余裕があるだけで、対立は少しずつ違う色合いを帯びてきます。短絡的に「敵か味方か」を判断するのではなく、その向こうにいる“生身の人間”の心情を想像し、対話を試みることが大切だと思います。

そして、この対話の先に見えるものは「わかちあい」ではなく、むしろ「わからなくても一緒に暮らしていく」ための深い理解かもしれません。対立や衝突はおそらく、なくなることはないでしょう。でも、それは決して悲観的な未来ではありません。自分と違う意見を持つ人がいるからこそ、世界は多様で、何度でも学びなおせる場所になるのです。どのような小さな違いであっても尊重し合い、誠実に耳を傾け続ける姿勢こそが、ケンブリッジ・アナリティカ事件という“大きな警鐘”に対する、私たちの一番の応えではないでしょうか。

印象に残った言葉【本書から引用】

よい対立は、わたしたちがよりよい人間となれるよう背中を押してくれる。(中略)対して、「善と悪」「わたしたちと彼ら」といった、相反する関係が明確になったときに起こるのが不健全な対立だ。(P.12)
対立を乗り越える唯一の方法、それは対立としっかり向き合うことだ。(P.51)
人間はちょっと背中を押されるだけで、相手を悪者と見なすこともできれば、協力することもできる(P.143)
対立を避けるコツその1はシンプルだ。とにもかくにも対立の火種を避けること。(P.286)
相手を理解したからといって、それで相手を変えられるわけではない。理解するだけではとても足りない。ほとんどの人は、自分の話を相手に聞いてもらえていると実感できるようになるまで変われない。(P.380)

AUTHOR天野 勝規

株式会社まほろば 代表取締役

士業専門のホームページ制作会社「株式会社まほろば」の代表取締役。大阪教育大学 教育学部 卒業。総合小売業(東証プライム上場)、公益法人での勤務を経て29歳で起業。
独立開業時の集客・顧客開拓に関する相談から、年商数億円規模の事務所のマーケティング顧問まで幅広い対応実績。15年間で3,000事務所以上からご相談・お問合せ。
ホームページを活用しつつも、SEO対策だけに頼らない集客・顧客開拓の仕組みづくりを推奨している。
【保有資格】
社会保険労務士、年金アドバイザー2級

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