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予測困難なVUCA時代にこそ、クリティカル・シンキング(批判的思考)を

自己啓発

武器になる哲学

人生を生き抜くための哲学・思想のキーコンセプト50

著者:山口 周
出版社:KADOKAWA
発売日:2018年5月18日

著者について

1970年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科美学美術史学専攻卒業、同大学大学院文学研究科美学美術史学専攻修士課程修了。電通、ボストン・コンサルティング・グループ等を経て、組織開発・人材育成を専門とするコーン・フェリー・ヘイグループに参画。2011年以降より2019年1月現在まで、同社のシニア・クライアント・パートナー。専門はイノベーション、組織開発、人材/リーダーシップ育成。2018年5月以降2019年1月現在まで、一橋大学経営管理研究科非常勤講師。

本の概要

巷では役に立たない学問として捉えられがちな「哲学」。哲学を学ぶ時間があるのなら、もっとビジネスの役に立つスキルを習得したい。実際、そのように考えているビジネスパーソンや経営者は多いだろう。

しかしながら、本書を読めば「哲学が役に立たない」というのは謂れのない誤解だということに気づくことになる。哲学とは、私たちが無意識のうちに規定している暗黙の前提や常識を意識的に疑い、真理を探究していく知的営みだ。哲学を学ぶことで得られるクリティカル・シンキング(批判的思考)の力は、VUCA時代とも表現される不確実性の高い現代を生きる私たちにとって非常に有用なものになるのではないだろうか。

そして本書では、多くのビジネスパーソン・経営者が向き合うべき「哲学・思想のキーコンセプト」を厳選してまとめ、わかりやすく解説したものである。ビジネスパーソンが向き合わなければいけない数々の問いについて答えを出す際、過去の哲学者が起案したさまざまな思考の枠組みやコンセプトが一助になる。

哲学が、役に立たないはずがない。
哲学こそ、知的戦闘力を最大にするための“武器”なのである。

読んだ感想

“Common sense is the collection of prejudices acquired by age 18.”
(常識とは18歳までに身につけた偏見のコレクションのことをいう。)

この言葉は、物理学者であるアルベルト・アインシュタインの言葉です。アインシュタインは1905年に発表した「特殊相対性理論」の中で「重量の影響を考えない特殊な環境においては、時間の進み方や空間の大きさは“絶対的”なものではなく、“相対的”なものである。」ということを提唱しました。この理論は「時間は誰にとっても同じように流れる」と信じていた多くの人々を驚かせました。いや、現代を生きる私たちにとっても、この結論はあまりにも直感や常識とかけ離れているため、俄かに信じがたいと感じる方も数多くいらっしゃるでしょう。しかしながら、発表から100年以上経った今日では観測技術の向上により特殊相対性理論の主張の正しさが数々の実験によって確認され、GPSの精度向上や原子力発電など、私たちの実生活に活用されています。アインシュタインがこの偉大なる発見をすることができたのは、彼が“常識”という名の偏見にとらわれることなく、思考のフレームワークを柔軟にシフトすることができたからかもしれません。

学問の世界だけでなく、ビジネスの世界においても思考のフレームワークをシフトさせることでさまざまなイノベーションが起こっています。男性用カミソリを研いで切れ味を回復させるのが常識の20世紀初頭に、使い捨ての替刃式カミソリを開発して財を築いたキング・キャンプ・ジレッド。ハードウェアとソフトウェアを100%自社で管理しているという弱みを、デジタルハブ戦略という逆転の発想で強みに変えたスティーブ・ジョブズ。彼らがイノベーションを起こすことができたのも、常識に囚われることなく考え方の枠組みを柔軟に変えることができたからでしょう。

そして哲学とは、私たちが無意識のうちに規定している暗黙の前提や常識を意識的に疑い、真理を探究していく知的営みです。ナチスドイツによるユダヤ人大量虐殺のアイヒマン裁判において「悪事は悪人によってなされるのではなく、思考停止した凡人によってなされる」と警鐘を鳴らしたハンナ・アーレント。多くの人が「自由」を求める世の中で「自由であることには耐え難い孤独と痛烈な責任を伴う」と説いたエーリッヒ・フロム。過去の哲学者の考えを学び、思考のプロセスを追うことは、私たちが18歳までに身につけた「常識」という名の色眼鏡を外し、別の角度から物事を捉え直すことにつながります。目の前の世界において常識として誰もが信じきっている前提や枠組み。それを一歩俯瞰した立場で相対化してみる。つまり「問う」ための学問が哲学であるともいえます。

もしあなたが「哲学書を、腰を据えてじっくりと読む気になれない」と考えていたり、「哲学書の原点を読むのは難解でわかりづらい」と感じたりしているのなら、ぜひ哲学書のエッセンスだけを抽出してまとめた本書を一読していただきたいです。今まで私たちが「そういうものだ」と受け止めていた現実が、全く違ったものとして見えてきます。哲学を学んで現実を比較相対化し、浮かび上がってくる「普遍性のなさ」にこそ、仕事のヒントやイノベーションの鍵となるアイデアが眠っているのかもしれません。

印象に残った言葉【本書から引用】

これまでに人類が繰り返してきた悲劇を、私たちは今後も繰り返していくことになるのか、あるいはそこで払った高い授業料を生かし、より高い水準の知性を発揮する人類、いわばニュータイプとして生きていけるかどうかは、過去の悲劇をもとにして得られた教訓を、どれだけ学びとれるかにかかっていると、私は固く信じています。(p.16)
悪とは、システムを無批判に受け入れることである。(p.87)
しかし、これだけ予測が難しく、不確実性の高い社会では、一見すると「頑強」に見えるシステムが、実は大変脆弱であったことが明らかになりつつあります。自分の所属する組織にしても自分のキャリアにしても、いかに「反脆弱性」を盛り込むかは、大きな論点になってくると思います。(p.180)
環境により適合したものが生き残るという自然淘汰のメカニズムにおいて、最大の鍵になるのは「適応力の差は突然変異によって偶発的に生み出される」という点でしょう。(p.205)
世界は公正ではありません。そのような世界にあってなお、公正な世界を目指して闘っていくというのが私たちに課せられた責務でしょう。人目につかぬ努力もいずれは報われるという考え方は、人生を破壊しかねないのだということをよく覚えておいてください。(p.249)

AUTHOR天野 勝規

株式会社まほろば 代表取締役

士業専門のホームページ制作会社「株式会社まほろば」の代表取締役。大阪教育大学 教育学部 卒業。総合小売業(東証プライム上場)、公益法人での勤務を経て29歳で起業。
独立開業時の集客・顧客開拓に関する相談から、年商数億円規模の事務所のマーケティング顧問まで幅広い対応実績。15年間で3,000事務所以上からご相談・お問合せ。
ホームページを活用しつつも、SEO対策だけに頼らない集客・顧客開拓の仕組みづくりを推奨している。
【保有資格】
社会保険労務士、年金アドバイザー2級

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