| 制作費 | 49,800円 | (税込54,780円) |
|---|---|---|
| 維持管理費 | 月額4,480円 | (税込4,928円) |
|
まほろば文庫
LIBRARY
ビジネス書の書評ブログ |
LIBRARY |
2026.08.18|自己啓発
新版
思考の整理学
著者:外山滋比古
出版社:筑摩書房
発売日:2024年2月13日
著者について
膨大な情報が絶え間なく押し寄せ、検索や生成AIを使えば「答えらしきもの」を瞬時に得られる現代。私たちはかつてないほど多くの知識に触れる一方、自ら問いを立て、考えを育てる機会を失いつつある。知識を持つことと、思考することは同じではない。では、集めた情報をどのように選び、熟成させ、独自の発想へと変えていけばよいのか。
『思考の整理学』は、この根源的な問いに向き合った知的エッセイである。外山氏は、教えられたことを受け取るだけの人間を「グライダー」、自力で思考し前へ進む人間を「飛行機」にたとえ、両方の能力を兼ね備えることの重要性を説く。
本書では、考えをあえて寝かせて熟成させること、複数のテーマを競わせること、忘却によって不要な情報を手放すこと、抽象化によって思考を高い次元へ引き上げることなど、独創的な発想を生み出すための知恵が語られる。1983年の刊行以来読み継がれてきた本書は、情報過多とAIの時代において、いっそう切実な意味を持つ一冊である。
“Well, you just have lots of ideas and throw away the bad ones." - Linus Pauling
(そうですね。とにかく多くのアイデアを出し、悪いものを捨てればいいのです。 - ライナス・ポーリング)
これは、20世紀を代表する米国の化学者、ライナス・ポーリング氏の言葉です。ポーリング氏は、当時まだ誕生して間もなかった量子力学の考え方を化学へ持ち込み、原子同士がなぜ、どのように結びつくのかを理論的に説明する道を開きました。元素が電子を引きつける強さを示す「電気陰性度」の尺度を確立し、混成軌道や共鳴といった概念を導入することで、化学結合を理解するための枠組みを大きく塗り替えた人物でもあります。
ポーリング氏が1939年に刊行した『化学結合論』は、個々の物質ごとに経験的に記述されていた結合や分子の性質を、量子力学に基づく一般的な原理のもとで体系化した著作です。ばらばらに蓄積されていた化学の知識を整理するだけでなく、未知の物質の構造や性質を理論から予測できる形へと組み直しました。同書は化学者の思考法そのものを変えた一冊とされ、今日まで読み継がれています。
彼の研究は、無機化合物や結晶の世界だけにはとどまりませんでした。ポーリング氏は研究対象を生体内の複雑な分子へ広げ、共同研究者とともにタンパク質の基本構造である「αヘリックス」を提唱しました。また、鎌状赤血球症が異常なヘモグロビン分子によって引き起こされることを示し、病気を臓器や症状だけでなく、分子の異常から理解する「分子病」という考え方を切り開きました。こうした化学結合と分子構造に関する研究によって、1954年にノーベル化学賞を受賞しています。
第二次世界大戦後、米国とソ連の核開発競争が激しさを増し、大気圏内で核実験が繰り返されると、ポーリング氏は放射性降下物が人体や将来世代に及ぼす危険をデータに基づいて訴えました。1958年1月15日には、世界各国の科学者9235人が署名した核実験停止を求める請願書を国連へ提出しています。
こうした核実験反対運動への長年の取り組みを理由に、ポーリング氏には1963年、1962年分のノーベル平和賞が授与されました。ノーベル賞をいずれも単独で二度受賞した人物は、現在もポーリング氏だけです。
では、これほど幅広い分野で成果を残したポーリング氏は、どのようにして新しい着想を生み出していたのでしょうか。ポーリング氏が1977年の講演で振り返ったところによると、1935年ごろ、当時教え子だった結晶学者デヴィッド・ハーカー氏から、「ポーリング博士は、どうしてそれほど多くのよいアイデアを思いつくのですか」と尋ねられたといいます。その問いに対して返した答えが、冒頭の言葉でした。
一般的に、歴史に残るような発見は、天才の頭に突然舞い降りた一つのひらめきから生まれると思われがちです。優れた科学者は、最初から正しい仮説を選び取ることができ、凡庸な人間のような見当違いを犯さない。私たちはどこかで、そのような天才像を思い描いています。
しかし、ポーリング氏が語った方法は、そのイメージとは大きく異なります。最初から優れたアイデアだけを出そうとするのではなく、正しいかどうかが分からない段階で、まず考えられる仮説をできるだけ多く生み出す。その中には、平凡な案も、見当外れな案も、後から誤りだと判明する案も含まれます。よいアイデアとは、誤りのない頭脳から直接取り出されるものではなく、多数の不完全なアイデアを生み、検討し、捨てる過程を経て残るものだったのです。
もっとも、ポーリング氏は、ただアイデアの数を増やせばよいと考えていたわけではありません。冒頭の言葉に続けて、多くのアイデアとともに、どれを残すべきかを見極める「選択の原理」が必要であり、その判断には経験によって培われる感覚が関わるとも説明しています。大量に思いつくことと、その中から追究に値するものを選ぶことは、別々の能力なのです。
この二つの働きは、本書『思考の整理学』でいう「拡散」と「収斂」に重なります。ポーリング氏の言葉を本書の語彙に置き換えるなら、「多くのアイデアを出す」ことが拡散であり、「悪いものを捨てる」ことが収斂です。拡散は、正解を急がず、既存の理解から外側へ考えを広げる働きです。一方の収斂は、散らばった着想を比較し、矛盾や欠点を調べ、一つのまとまりへ近づけていきます。
本書は、従来の学校教育が主として収斂的な能力を訓練してきたと指摘します。教科書で知識を学び、教師から与えられた問いに対して、用意された正解へたどり着く。著者は、こうして教えられた知識を正確に受け取る人間を、自力では離陸できない「グライダー」にたとえました。もちろん、知識を学ぶ力が不要という意味ではありません。問題は、それだけを「考える力」と呼び、正解のない場所へ踏み出す拡散的な思考を十分に育ててこなかったことです。
生成AIの普及によって、アイデアをたくさん出す作業は驚くほど簡単になりました。しかし、アイデアの数が増えても、思考の射程まで広がったとは限りません。2024年に『Science Advances』へ掲載された実験では、生成AIの助言を受けて書かれた短編は、個別には創造性や文章の質を高く評価された一方、作品同士は似通う傾向を示しました。生成AIは、量のうえでは拡散しながら、集団全体の表現を同じ方向へ収斂させる性質があるのです。
「とにかく多くのアイデアを出し、悪いものを捨てればいいのです」
これからの時代で問われるのは、どれだけ多くの答えを持っているかではありません。何を捨てるのか。なぜそれを捨てるのか。そして、捨てたあとに残った答えを、本当に自分の考えとして引き受けられるのか。その判断の深さにこそ、思考するという行為の重みが表れるのではないでしょうか。
この本では、グライダー兼飛行機のような人間となるには、どういうことを心掛ければよいかを考えたい。グライダー専業では安心していられないのは、コンピューターという飛び抜けて優秀なグライダー能力のもち主があらわれたからである。自分で翔べない人間はコンピューターに仕事をうばわれる。(P.12)
ひとつだけだと、見つめたナベのようになる。これがうまく行かないと、あとがない。こだわりができる。妙に力む。頭の働きものびのびしない。ところが、もし、これがいけなくとも、代りがあるさ、と思っていると、気が楽だ。テーマ同士を競争させる。いちばん伸びそうなものにする。さて、どれがいいか、そんな風に考えると、テーマの方から近づいてくる。「ひとつだけでは、多すぎる」のである。(P.35)
思考の整理というのは、低次の思考を、抽象のハシゴを登って、メタ化して行くことにほかならない。第一次的思考を、その次元にとどめておいたのでは、いつまでたっても、たんなる思い付きでしかないことになる。(P.62)
知識ははじめのうちこそ、多々益々弁ず、であるけれども、飽和状態に達したら、逆の原理、削り落し、精選の原理を発動させなくてはならない。つまり、整理が必要になる。はじめはプラスに作用した原理が、ある点から逆効果になる。そういうことがいろいろなところでおこるが、これに気付かぬ人は、それだけで失敗する。(P.110)
これまでの学校教育は、主として収斂性による知識の訓練を行なってきた。これには、いつも正解が予想される。満点の答案がありうる。長い間学校教育を受けていると、すべてのことに、正解があるのだというような錯覚におちいるのは、収斂能力だけを磨かれているからである。(P.174)

AUTHOR天野 勝規
株式会社まほろば 代表取締役
士業専門のホームページ制作会社「株式会社まほろば」の代表取締役。大阪教育大学 教育学部 卒業。総合小売業(東証プライム上場)、公益法人での勤務を経て29歳で起業。
独立開業時の集客・顧客開拓に関する相談から、年商数億円規模の事務所のマーケティング顧問まで幅広い対応実績。15年間で3,000事務所以上からご相談・お問合せ。
ホームページを活用しつつも、SEO対策だけに頼らない集客・顧客開拓の仕組みづくりを推奨している。
【保有資格】
社会保険労務士、年金アドバイザー2級
こちらの記事もどうぞ
書籍のジャンル