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中小企業経営・マーケティングの基礎知識 |
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2026.07.24|経営・マーケティング
「御社は何をされている会社なんですか?」
交流会や商談の場で、このように尋ねられた経験のある方は多いのではないでしょうか。そんなとき、「あれもできます」「これも手がけています」「最近はこんなご相談も増えています」と説明を重ねるほど、相手の表情に戸惑いが浮かんでしまう。そんな経験に心当たりがある方も少なくないでしょう。
真摯に仕事に向き合い、事業領域を広げ、多様なニーズに応えられるようになったこと自体は、企業にとって大きな強みです。しかし皮肉なことに、できることが増えるほど、「結局、何を専門にしている会社なのか」が相手に伝わりにくくなります。
一方で、人は複雑な情報よりも、シンプルで分かりやすい情報を記憶します。そのため、多くの選択肢がある場面では、「一言で説明できる会社」の方が印象に残り、比較・検討の対象として選ばれやすくなります。
本記事では、なぜ「一言で伝わる会社」が競争力を持つのかを整理するとともに、自社ならではの「一言」を見つけるための考え方について解説します。
目次
まず押さえておきたいのは、人は一度に多くの情報を提示されると、かえって判断しにくくなるということです。選択肢が増えれば選びやすくなるとは限らず、むしろ迷いが生じやすくなります。
この現象を示す例としてよく知られているのが、「ジャムの実験」です。スーパーの店頭で、多くの種類のジャムを並べた場合と、種類を絞って並べた場合を比較したところ、購入率が高かったのは種類を絞った方でした。選択肢が多すぎると、人は選ぶこと自体に負担を感じ、結果として購入を見送る傾向があることが示されています。
これは会社の伝え方にも当てはまります。「あれもできます」「これも対応しています」と幅広さを伝えようとするほど、相手は情報を整理しきれなくなります。その結果、本来は強みであるはずの事業の幅広さが、「結局、何を得意としている会社なのかわからない」という印象につながってしまうのです。
さらに厄介なのは、その場では問題が表面化しにくいことです。交流会や商談では、「いろいろなことをされているんですね」と好意的な反応をもらい、会話は和やかに終わるでしょう。しかし、その後、相手が実際に専門家や取引先を探す場面になると、真っ先に思い浮かぶのは、「○○ならあの会社」と一言で結び付けられる会社です。
前回の記事でも触れたように、新規顧客の獲得において紹介は大きな役割を果たします。そして紹介の場面で交わされるのは、会社案内のような詳しい説明ではありません。「ホームページ制作ならあの会社」「建設業許可ならあの行政書士」といった、短く分かりやすい言葉です。
つまり、自社を一言で表現できない会社は、相手の記憶に残りにくいだけでなく、紹介される機会も逃しやすくなります。紹介は「思い出してもらうこと」から始まります。その入口を広げるためにも、自社を端的に伝える言葉を持つことが重要なのです。
株式会社トライバルメディアハウスが公表した「第一想起白書2025」によると、消費者が特定のカテゴリーについて、ヒントなしで思い浮かべるブランドの数は平均して2つ以下とされています。さらに、最初に思い浮かんだ「第一想起」のブランドが最も選ばれやすく、二番目、三番目になるほど選ばれる可能性は低くなることが分かっています。
つまり、お客様の頭の中で「この分野ならこの会社」と真っ先に思い出してもらえるかどうかが、選ばれるかどうかを大きく左右するのです。その"指定席"を獲得するために欠かせないのが、「自分たちは何の会社なのか」を一言で伝えられることです。
例えば、次の二つを比べてみてください。
対象とする範囲だけを見れば、後者の方が狭くなります。しかし、二世帯住宅を建てたい人や、経営者として信頼感のある写真を撮りたい人にとっては、後者の方が圧倒的に印象に残ります。100社の「何でもできる会社」よりも、1社の「専門性を明確に打ち出した会社」の方が、記憶され、選ばれやすいのです。
もちろん、実際には専門店であっても周辺業務まで対応していることは少なくありません。重要なのは、提供できるサービスをすべて伝えることではなく、最初に思い出してもらう入口を明確にすることです。一言で興味を持ってもらえれば、その後に対応領域の広さを伝える機会は十分にあります。
だからこそ、自社を定義するときは、「何ができるか」を並べるのではなく、「誰が、どのような場面で、自社を真っ先に思い出してほしいのか」という視点から考えることが大切です。お客様が見ているのは、スキルや実績の一覧ではありません。「この悩みなら、この会社」という結び付きが、一言で伝わるかどうかなのです。
「一言に絞ってしまうと、それ以外の仕事を依頼したいお客様を逃してしまうのではないか」「間口は広い方が、新規顧客を獲得しやすいのではないか」。このような不安を抱く経営者は少なくありません。その結果、自社の強みを一言に絞り切れず、幅広いサービスを並べてしまうケースは数多く見られます。
しかし、ここで区別して考えるべきなのは、「何で覚えてもらうか」と「何を受注するか」は別の問題だということです。看板となる一言を定めることは、お客様の記憶に残る入口をつくることであり、対応できる業務を限定することではありません。
例えば、「二世帯住宅の専門店」を掲げる工務店であっても、リフォームや増改築の相談があれば柔軟に対応するでしょう。専門性を打ち出すことは、「その仕事しか受けない」という宣言ではなく、「まずはこの分野で思い出してもらう」という戦略なのです。
むしろ、看板が曖昧な会社ほど、お客様の記憶に残りにくくなります。結果として、価格や条件だけで比較される競争に巻き込まれやすくなり、「どこに頼んでも同じ」と判断されかねません。
一方、自社を一言で表現できる会社には、「まさにこの会社を探していた」という目的意識の高いお客様が集まります。こうしたお客様は、価格だけで比較するのではなく、専門性や価値に納得したうえで依頼する傾向があります。そのため、契約後の満足度も高く、継続的な取引や紹介につながりやすくなります。
身近な例として、街の飲食店を思い浮かべてみてください。ラーメン、定食、丼物など何でもそろえている店は便利ですが、「あの店に行こう」と真っ先に思い浮かぶ存在にはなりにくいものです。
それに対して、「味噌ラーメンがおいしい店」として知られている店には、それを目的に足を運ぶ人が集まります。もちろん、実際にはサイドメニューや他のラーメンも提供しているでしょう。しかし、お客様の記憶に残る理由は一つで十分なのです。
重要なのは、提供するサービスを減らすことではありません。お客様に何で覚えてもらうか、その看板を一つに定めることです。その一言が、自社を選んでもらう最初のきっかけになります。
では、自社を表す「一言」は、どのように見つければよいのでしょうか。無理にキャッチコピーを考えようとする必要はありません。自社の仕事を振り返り、いくつかの視点から整理していくことで、本当に伝えるべき軸が見えてきます。
まずは、お客様から特に感謝された仕事を思い出してみましょう。「本当に助かりました」「お願いしてよかった」といった言葉が印象に残っている案件には、自社ならではの価値が表れています。日常的に行っている業務ほど当たり前に感じてしまいますが、そこに競合にはない強みが隠れていることは少なくありません。
お客様に喜ばれても、利益が出なかったり、現場が疲弊したりする仕事は、看板として掲げるには適していません。長く続けられ、会社としても手応えを感じられる分野こそ、自社の軸にふさわしい領域です。お客様の満足度と収益性、その両方が満たされる仕事を選ぶことが重要です。
紹介が多い仕事にも、自社の強みが表れています。誰かが「この内容なら、あの会社がいいよ」と勧めてくれるのは、その分野で信頼を得ている証拠です。広告や営業をしなくても紹介が生まれる領域は、お客様がすでに価値を認めている分野だと考えられます。
この三つの視点が重なるところに、自社を表す「一言」の候補がある可能性は高いでしょう。
候補が見えてきたら、最後にぜひ確認してほしいことがあります。それは、お客様が自社をどのような言葉で紹介しているかです。
例えば、「○○なら、あの会社に相談するといいよ」と紹介されることがあるなら、その「○○」こそがお客様の認識です。自社が名乗りたい肩書きよりも、お客様が自然に使っている言葉の方が、分かりやすく、伝わりやすい場合は少なくありません。自社のブランドは、自分たちが決めるだけでなく、お客様によって形づくられていることも意識しておきたいところです。
なお、一言を考える際に、奇抜な表現や印象的なキャッチコピーを無理につくる必要はありません。大切なのは、「この分野なら、この会社」と迷わず思い出してもらえることです。分かりやすく、誤解がなく、自社の強みを正確に表している言葉であれば十分です。
そして、一言が決まったら、それを一貫して発信することが重要です。ホームページのファーストビュー、名刺の肩書き、会社案内、社員の自己紹介、交流会での説明など、お客様との接点となるあらゆる場面で同じ言葉を使いましょう。伝える内容に一貫性が生まれることで、「この会社といえば○○」という印象が少しずつ定着し、記憶にも残りやすくなります。逆に、場面ごとに異なる表現を用いてしまうと、せっかく定めた軸がぼやけ、「結局、何をしている会社なのだろう」という印象に戻ってしまいます。ブランドは、一度伝えるだけでは定着しません。同じメッセージを繰り返し届けることによって、初めてお客様の記憶に根付いていくのです。
「結局、何をしている会社なのですか?」という問いに、一言で答えられるかどうか。それは、お客様に覚えてもらい、選ばれ、さらに紹介してもらえるかどうかを左右する重要な要素です。自社を一言で表現することは、単なるキャッチコピーづくりではなく、経営の軸を明確にする取り組みでもあります。
「一言に絞る」と聞くと、事業の幅を狭めるように感じるかもしれません。しかし、実際に絞るのは提供するサービスではなく、お客様の記憶に残る入口です。その入口が明確であるほど、自社を必要とする人に見つけてもらいやすくなり、選ばれる機会も増えていきます。
まずは、自社をまったく知らない相手に、10秒だけで会社を紹介する場面を想像してみてください。その短い時間で、「なるほど、その会社なら相談したい」と伝わる一言は何でしょうか。
その一言を磨き上げることが、お客様の頭の中に「この分野なら、この会社」という指定席をつくる第一歩になります。そして、その積み重ねが、選ばれる会社へと成長していく土台になるのです。

AUTHOR天野 勝規
株式会社まほろば 代表取締役
士業専門のホームページ制作会社「株式会社まほろば」の代表取締役。大阪教育大学 教育学部 卒業。総合小売業(東証プライム上場)、公益法人での勤務を経て29歳で起業。
独立開業時の集客・顧客開拓に関する相談から、年商数億円規模の事務所のマーケティング顧問まで幅広い対応実績。15年間で3,000事務所以上からご相談・お問合せ。
ホームページを活用しつつも、SEO対策だけに頼らない集客・顧客開拓の仕組みづくりを推奨している。
【保有資格】
社会保険労務士、年金アドバイザー2級
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